| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-061 (Poster presentation)
ダーウィンフィンチ類の嘴の形態と餌との関係に代表されるように、口の形態と餌はしばしば関連している。先行研究で、アザラシ科において、歯のギザギザした形態と動物プランクトンの捕食量が相関しており、この形態が小さい餌を口内に留める「篩」の役割を持つと考察した。バイカルアザラシはこの篩状の歯形態が近縁種に比べて発達しており、当該種による大量捕食も報告されている。しかし、当該種が実際に歯形態を動物プランクトン捕食に役立てているのかは、分かっていない。そこで本研究では、当該種における歯形態の機能と、動物プランクトンの位置づけを評価することを目的に、もう一つの主な餌である魚類を捕食する場合との、①口吻の動きの比較と、②捕食に係る消費エネルギーの比較を行った。
①では、サンシャイン水族館の飼育個体(n=1)に、魚と動物プランクトンをそれぞれ給餌し、口吻の動きを側面から記録した。映像から、下顎の最大加速度や餌の処理時間、歯の用い方を比較・解析した。②では、2018年にバイカル湖で野生個体(n=3)に取り付けたロガーから収集された、三軸加速度とビデオデータを使用した。三軸加速度から、捕食に係るエネルギー消費速度(Overall Dynamic Body Acceleration)を算出し、この値が餌によって変化するのか、解析を行った。
①から、下顎の最大加速度(p = 0.01)や処理時間(p < 0.001)が、魚よりも動物プランクトン捕食時に、有意に小さいことが示された。また、動物プランクトン捕食時でのみ、吸引・濾過の捕食様式が使われており、歯形態は篩として機能していることが明らかになった。②では、捕食に係る消費エネルギー速度が、魚よりも動物プランクトンで有意に少ないことが示された(GLMM, p < 0.001)。以上の結果は、当該種で見られる動物プランクトンの大量捕食は、得られるエネルギーが少なくとも、小さい餌の捕食に適した形態と、捕食に係る消費エネルギーが少なくて済む為に可能であると考察できる。