| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-064  (Poster presentation)

ハリガネムシによる宿主カマキリの偏光走性強化の適応的・非適応的帰結
Enhanced polarotaxis of host mantids causes adaptive and muladaptive consequences for the extended phenotype of a nematomorph parasite

*澤田侑那(京都大学)
*Yuuna SAWADA(Kyoto Univ.)

人間活動は生物が経験してきた光環境を急激に変化させているが、生物は以前と同じように光応答を行うので、結果的に生物は人為構造物へ不適応に誘引されることが危惧されている:光応答に関する「Evolutionary trap」。自然界には自由生活者よりも多様な内生生物が存在し、その中には、宿主の光受容能を利用・改変して行動を操作することで自身の適応度を高めている種が多数報告されている(「延長された表現型」の典型例)。このことは、光環境の人為改変が、自由生活者のみならず、内生生物の延長された表現型に対するEvolutionary trapを生じることを示唆するが、その実証例はこれまでない。
本研究では、ハリガネムシ類による宿主カマキリの入水行動という現象に注目し、寄生生物の延長された表現型に対するEvolutionary trapの検証を行った。野外の水域での光測定から、水域の恒常性と反射光の偏光の割合(偏光度)の間には正の関係があり、枯れにくい水域の指標となることが分かった。ハリガネムシの幼生は中間宿主に感染し、その羽化に伴って陸域へ移動するまで水域が維持される必要がある。そのため、枯れにくい水域に終宿主を誘導することは、ハリガネムシの生活史完結にとって重要である。
室内での偏光走性実験と野外での入水行動実験により、ハリガネムシ類による宿主の偏光走性の強化は、枯れにくい水域への入水を誘導する可能性を高めており、適応的な光応答操作であることが示唆された。一方、光環境の人為改変の要因になるアスファルト道路は、水面と非常によく似た偏光度の光を反射していた。野外での感染率の地点間比較と歩行実験から、ハリガネムシに操作された宿主はアスファルト道路に強く誘引されていた。水域ではなくアスファルトに誘引された宿主は、車や歩行者等に踏みつぶされて寄生者諸共に死亡する可能性が高い。これらの結果は、Evolutionary trapが個体の枠を超えて、寄生生物の延長された表現型においても存在しうることを示している。


日本生態学会