| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-065 (Poster presentation)
イノシシは豚熱の感染源として問題となっており、各地で経口ワクチンの散布が行われている。経口ワクチンのベイト剤はトウモロコシ粉、スキムミルク、アーモンド香料等で構成されているが、タヌキ等の他種による持ち去りや盗食などが生じており、イノシシの摂取率の低下が課題となっている。野生哺乳類にとって嗅覚は、採食や繁殖など個体の生存に重要な役割を果たしている。そのため、香料を利用することで経口ワクチンの散布効率が向上する可能性があるが、誘引効果を期待した匂いに対する野生哺乳類の反応に関する知見は乏しい。そこで、本研究では、食品香料を用いて、野生哺乳類が香料に対してどのような反応をするのか調べた。
調査は、群馬県前橋市の赤城山周辺の森林内にて、2023年1月から2024年1月にかけて、食品香料4種(アーモンド、コーン、酒粕、ミルク)に1週間含浸させたロープを香料ごとに2地点ずつ、何もしていないロープ(コントロール)を2地点、計10地点設置し、自動撮影カメラを用いて各地点の動物の行動を記録した。ロープは2か月ごとに交換し、ロープ設置時とロープ回収前の臭気を、臭気測定器を用いて測定した。動物の行動は、反応なし、地面を掘る、ロープを張った支柱を嗅ぐ、ロープを嗅ぐ、触れる・噛む、体を擦りつける、の6つに分類した。
その結果、2023年1月から11月までに、シカ、タヌキ、リス、ネズミ類、イノシシ、テン、ノウサギ、ツキノワグマ、ハクビシン、アナグマ、カモシカ、キツネ、ノネコ、アライグマ、イタチ(撮影数順)が撮影され、これらの総撮影数は2550枚であった。撮影数は酒粕で最も多くなっていたが、香料への反応と考えられる行動(ロープを嗅ぐ、触れる・噛む、体を擦りつける)の割合はコーンで最も高くなっていた。本発表では2024年1月までのデータを取りまとめ、臭気測定データを含めた詳細について考察する。