| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-066 (Poster presentation)
農作物の世界的な大害虫であるミバエ類の防除ための技術として、不妊虫放飼法が広く用いられている。この方法は環境への影響が比較的少ないとされ、実際に根絶を達成した事例も見られるが、不妊虫の生産や不妊化施設の維持コストが大きい。そこで演者は、不妊虫放飼法と繁殖干渉の理論的類似性に注目し、一種の不妊虫によって同種のみならず近縁他種の害虫も防除する新しい防除法の開発を試みてきた。これまで行った理論的な検討により、ごく弱い繁殖干渉しかない場合でも、繁殖干渉を与える種の不妊虫を放飼することで、2種の害虫をほぼ同時に根絶させることが可能であることを明らかにしている。本研究では、2種の侵入ミバエ害虫であるミカンコミバエBactrocera dorsalisとナスミバエBactrocera latifrons間に繁殖干渉が起こるのか、起きるとすれば、どちらの方向に、どのような強さで生じるのかを実験的に検証し、その応用可能性について議論する。
実験アリーナとしてメッシュケージ(60x60x60cm)を用意し、両種のペア比率を変えた5つの処理区(ミカンコ:ナスミ、4:0, 3:1, 2:2, 1:3, 0:4)を用意し、両種の配偶時間帯である日没直前を含む、午後4時から日没までの間、行動観察を行い、交尾ペア数を記録した。
その結果、ミカンコミバエが存在することで、ナスミバエの配偶行動が抑えられるという傾向が見られた。しかし、闘争行動やマウントなど、異種個体間の直接的な相互作用が多く観察されたわけではなかった。本研究の結果は、繁殖干渉をSITに組み込むことで、複数種を同時に防除する技術にできる可能性を示している。また、ミカンコミバエでは、新たに侵入した地域において、土着種や先行する侵入種を競争的に排除する事例が頻繁に報告されているが、ミカンコミバエによる他種への繁殖干渉で説明できるかもしれない。