| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-068  (Poster presentation)

ニホンミツバチは翅でアリを弾き飛ばす
Japanese honeybee workers slap ants with their wings

*瀬古祐吾, 森井清仁, 坂本佳子(国立環境研究所)
*Yugo SEKO, Kiyohito MORII, Yoshiko SAKAMOTO(NIES)

ミツバチ(Apis)の巣は、卵や幼虫、成虫、蜂蜜といった多量の資源が集中することから、一部の捕食者や寄生者にとっては魅力的な存在である。巣の資源を狙う捕食性のアリに対し、ミツバチはfun-blowingと呼ばれる特殊な防衛行動を示すことが知られる。これは、ミツバチの羽ばたきで生じた風圧によって、非接触的にアリをミツバチの巣の入り口から遠ざける行動である。一方、ニホンミツバチ(Apis cerana japonica、以下ニホン)は、アリを翅で直接的に弾き飛ばすことが示唆されており、fun-blowingとは異なる防衛行動をとる可能性があるものの、詳細は不明である。そこで本研究では、トビイロシワアリTetramorium tsushimaeがニホンの巣へ近づく様子をハイスピードカメラで撮影し、一連の防衛行動を観察した。その結果、ニホンは体を傾け、回転させながら羽ばたくことで、トビイロシワアリを翅で弾き飛ばしていた。このことから、ニホンはトビイロシワアリに対してfun-blowingとは異なる防衛行動(スラッピング; slapping)をとることが示された。次に、スラッピングが特定のアリ種のみに対する反応であるかを調べた。実験には3種のアリ(トビイロシワアリ、アミメアリPristomyrmex punctatus、クロヤマアリFormica japonica)を用いた。ニホンの巣の入り口付近へアリを種ごとに導入し、スラッピングが生じた頻度と、その成功率を記録した。その結果、どのアリ種に対しても、ニホンは他の反応と比べて最も高い頻度でスラッピングを行った。また、成功率はトビイロシワアリとアミメアリが相手の場合に約1/2から1/3、クロヤマアリに対しては1/10以下であった。これらのことから、スラッピングはニホンがアリに対して普遍的に行う防衛行動であるが、その成功率は対峙するアリ種によって差があり、特に、体が大きく歩行速度が速いクロヤマアリに対しては比較的効果が低いと考えられた。本発表では、スラッピングの進化的意義や、今後の発展についてさらに議論する。


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