| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-069  (Poster presentation)

モウコガゼルの生息地選択への飛翔性昆虫の影響:位置と加速度の総合解析
Influence of insect harassment on habitat selection of Mongolian gazelles: Analysis of location and acceleration data recorded by animal-borne sensers

*伊藤健彦(北海道立総合研究機構, 麻布大学), 長崎亜湖(麻布大学), 多田陸(東京農業大学), 菊地デイル万次郎(東京農業大学), Munkhbat UUGANBAYAR(WWF Mongolia), Buyanaa CHIMEDDORJ(WWF Mongolia)
*Takehiko ITO(Hokkaido Research Organization, Azabu Univ.), Ako NAGASAKI(Azabu Univ.), Riku TADA(Tokyo Univ. Agri.), Dale M KIKUCHI(Tokyo Univ. Agri.), Munkhbat UUGANBAYAR(WWF Mongolia), Buyanaa CHIMEDDORJ(WWF Mongolia)

吸血性・寄生性の飛翔性昆虫の存在は有蹄類の行動や生息地選択などに影響することが知られているが、野生動物での影響評価は容易ではない。しかし、演者らが開発した、3軸加速度解析による虫除けのための首振り行動検出は、飛翔性昆虫の定量的なモニタリングを可能にする。そこで本手法を用いて、モンゴルの草原地帯に生息する野生有蹄類モウコガゼルの移動や採食行動への飛翔性昆虫の影響を評価することを目的とした。解析には、加速度計付GPS首輪装着により、4時間ごとの位置と10秒ごとの加速度を2年間記録できた、成獣メス1個体を用いた。加速度解析では、平均活動量から行動を静的活動(休息・反芻)と動的活動(採食・移動)に分類し、3軸加速度の波形から首振り行動を検出した。対象個体の夏季の利用地域は2020年と2021年の2年間で重複し、その地域の植生指数は2021年のほうが高かった。首振り回数は2年とも春から増加し、7–8月にピークに達した。5月から9月には、有意差が認められたすべての時間帯で、動的活動時間は2020年に長く、静的活動時の首振り回数は2021年に多かった。これらはモウコガゼルの食物と飛翔性昆虫が2020年よりも2021年に多かったことを示唆する。また、動的活動時間あたりの移動距離(移動速度)は、5、6、9月には2020年に、7月全日および8月の16–20時には2021年に長(速)かった。食物量が多い状況下で、首振り回数がとくに多かった期間にのみ移動速度が速かったことは、飛翔性昆虫への忌避行動が反映された可能性が高い。対象個体の利用地域は、飛翔性昆虫が比較的少ない砂漠に近い環境だったが、飛翔性昆虫の相対量の日周・季節・年次変動と行動への影響を検出できた。動物の位置・加速度・環境情報の総合解析は、野生動物への飛翔性昆虫の影響解明に大きな力を発揮するだろう。


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