| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-070 (Poster presentation)
生物の性的形質の発達は遺伝要因や環境要因の影響を強く受けることが示されており、個体群間で、体サイズや武器等の性的形質の発達度合いに変異があることは様々な生物で報告されてきた。しかし、雄の交尾戦略の変異について個体群間で比較された研究は少ない。日本に生息するヤマトシリアゲ Panorpa japonicaは、婚姻贈呈に使用する餌を巡って雄間闘争を行う。雄間闘争に敗北した雄は、勝利雄が保持する餌場の近辺で代替交尾戦術を採用する。発表者は、雄の代替交尾戦術のパターンが、愛知・弘前個体群と岡山個体群とで差異が生じていることを発見し、報告した (Ishihara and Miyatake 2022)。
本発表では、上記個体群に加えて徳島、神戸、鳥取、松本の各個体群を使用して、代替交尾戦術のパターンに地理的な連続性が存在するか検証すると同時に、各地域個体群の種内系統と代替交尾戦術パターンの関係性について調査を行った。代替交尾戦術の頻度について各個体群間で比較した結果、各地域個体群間で代替交尾戦術の変異に地理的な連続性は検出されなかった。例えば、岡山個体群は徳島、松本、神戸とは異なる代替交尾戦術の頻度を示した。また徳島および松本個体群は愛知、弘前、神戸個体群とは異なる代替交尾戦術の頻度を示した。ミトコンドリアDNA COI領域に基づいた分子系統解析の結果、各地域個体群の代替交尾戦術パターンと種内系統関係との関連性は確認されなかった。 これらのことから、雄の代替交尾戦術のパターンの変異がそれぞれの地域個体群ごとで生じている可能性が示された。以上の結果と、各地域個体群で実施した標識再捕獲法よる生息個体数の推定と、餌場に来訪した個体数の地域間比較により、P. japonicaの代替交尾戦術の変異に与える環境要因について考察する。