| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-075 (Poster presentation)
多くの動物は捕食者との遭遇時に逃避行動をとり、その速度が捕食回避の成否を決める。逃避速度は種間だけでなく種内においても変異が大きい。例えば、多くの両生類の幼生は、捕食者がいる環境で育つと、捕食者がいない環境で育つ場合に比べて逃避速度が大きいことが知られる。しかし、捕食者条件での逃避速度の増大がいかにして生み出されるのか、そのメカニズムはわかっていない。一つ考えられるのは形態の変化である。両生類の幼生では、捕食者の有無によって形態が異なることがわかっており、捕食者条件では、逃避の動作効率(駆動部の動きを逃避速度に変換する効率)を向上させるような形態的特徴が発現していると予想される。本研究では、エゾアカガエル幼生を用いて、この仮説を検証した。エゾアカガエル幼生では捕食者種(ヤゴ、エゾサンショウウオ幼生)によって誘導される形態的表現型が異なることから、これらと捕食者がいない条件で育った表現型(非誘導型)の間で比較を行った。人為的な刺激に対する逃避行動を解析した結果、ヤゴ誘導型>サンショウウオ誘導型>非誘導型の順で動作効率が良く、それによって逃避速度が異なることがわかった。非誘導型に比べ、ヤゴ誘導型とサンショウウオ誘導型は尾鰭が大きいことから、これが動作効率の向上をもたらしたと考えられる。注目すべきは、サンショウウオ誘導型はヤゴ誘導型より、動作効率は悪かったが、尾鰭のサイズが大きかったことである。サンショウウオ誘導型は丸呑みされないよう頭胴部を膨張させるがそれによって水抵抗が大きくなり、尾鰭が大きいにもかかわらず動作効率は最大化されていないと考えられる。以上、エゾアカガエル幼生では、捕食者がいると逃避を強化するような形態の変化が生じていることが明らかとなった。また対峙する捕食者の種によっては他の防御機能をもつ形態変化が生じることで逃避の強化は制限される場合があることが示唆された。