| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-080 (Poster presentation)
ニホンヤマビル(Haemadipsa japonica)は,本州に広く分布する陸生のヒルで,近年ニホンジカの個体数増加に伴い個体数が増加し,人間への吸血被害が拡大してきている。落葉下や浅い土中などの湿気の高い場所に好んで生息するが,冬季の生態は不明な点が多く,自然界における越冬個体発見の報告例はない。
本研究では,冬季におけるヤマビルの越冬生態及び越冬直前の吸血有無と気温との関係性の2つに着目し,ヤマビルが越冬状態に入る条件を調べた。
千葉県君津市及び鴨川市の調査区においてコドラートを設定し,L層,F/H層,A層の3種の層を採取,ソーティングにより君津市で採取したL層にて越冬個体を発見した。これを受け,1年後に同調査区に赴きフィールドにおけるヤマビルの探索によって,君津市のA層の上部で,フィールドにおける生きた越冬個体を初めて発見した。越冬ヤマビルは全長2.9㎝だが,発見時は1.2㎝に縮んでいた。越冬ヤマビルをラボに持ち帰り,4℃に制御された環境下で強制越冬させたところ,F層とH層の境あたりで冬眠した。
ラボにて吸血させた仔ビル36匹を,L層7㎝,F/H層3㎝を再現した人工環境下で飼育し,最も活発な時期の気温26℃から 33日間で4℃まで下げ,その間のヤマビルの位置を観察した結果,12℃前後で活性が低下し,L層より深く外気に触れにくい層に潜ることが分かった。吸血なしの個体は吸血ありに比べ,低い温度でも呼気に反応し活動が活発化した。
冬季における活動停止状態から越冬状態に移行するためには吸血が必要であり,吸血できない場合には低温下でも活動する可能性が示唆された。今後,温湿度・CO2・振動等の環境条件を変化させ細かな越冬条件・覚醒条件を調べることで,二ホンヤマビルの環境変化に伴う分散予測が期待できる。