| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-084  (Poster presentation)

孵化直後の水域捕食者は将来の餌の採餌履歴に依存して成長速度を可塑的に調整する
Pre-feeding aquatic juveniles plastically modify their growth rate depending on the presence of future prey with different foraging histories

*片山昇(小樽商科大学), 佐藤来未(小樽商科大学), 長崎夕(小樽商科大学), 小林真(北海道大学)
*Noboru KATAYAMA(Otaru Univ. Comm.), Kurumi SATOH(Otaru Univ. Comm.), Yu NAGASAKI(Otaru Univ. Comm.), Makoto KOBAYASHI(Hokkaido Univ.)

表現型可塑性の発現には一般にコストを伴うため,現在の状況を的確に感知し的確な表現型を発現させた個体が適応度を高めることができる.したがって,適応論から表現型可塑性の理解を深めるには,「どのようなシグナルがどのように表現型を発現させるか」について詳細に調べる必要がある.生物的シグナルは特に状況依存でありえる.例えば, シグナル発信者が消費者の場合,過去の採餌履歴によって発信者の生理状態は変わり,その結果シグナルも変化するかもしれない.この現象の解明には,生態化学量論の考え方が有効だろう.なぜなら,生物の元素比は栄養段階によって異なり,元素比の異なる餌を消費した場合,消費者自身または彼らの排泄物の元素比に違いが生じるからである.本研究では,エゾアカガエルのオタマジャクシ(以下,オタマ)の存在に応じて成長速度を可塑的に変えるエゾサンショウウオ(以下,サンショ)の孵化幼生を対象に,異なる採餌履歴のオタマが孵化幼生の成長速度の可塑性に及ぼす影響を調べた.雑食性のオタマに,動物性のアカムシあるいは植物性の牧草を与え1ヶ月間飼育した結果,動物性の採餌履歴のオタマは植物性の採餌履歴のオタマより大きくなるが,自身の体のC/Nを変えなかった.動物性の餌は植物性の餌よりもC/Nは圧倒的に低いが,オタマは恒常性を保つため,体のC/Nを一定にする必要がある.しかしその制約により,オタマは排泄物のC/Nを低めなければならない(つまりシグナルの改変が起こる).そこで次に,サンショの孵化幼生を, 動物性あるいは植物性の採餌履歴のオタマと飼育し,サンショの成長速度を比較した結果,動物性の採餌履歴のオタマといた時の方が,サンショは速く大きく成長した.孵化直後で口が未発達なサンショはオタマを食べることができないが,将来餌となるオタマの採餌履歴に応答して,可塑性の強度(ここでは成長速度)を調整する可能性がある.


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