| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-087 (Poster presentation)
繁殖成功率は生物の動態を予測するために重要なパラメータであるが、その推定は困難である。なぜなら、繁殖に至るまでの過程には、配偶相手を探してお互いに発見し、同種と確認するまでの求愛行動や、配偶子のやりとりを行う配偶行動、そして子供を産むための行動など、さまざまな行動が必要になってくるからである。また、その行動を行うための機能が体の各部位になくてはならない。
コオロギ亜科内の近縁種同士は、しばしば外見での判別が困難であり、また同所的に分布することもあるが、それぞれ種特異的な歌を持っている。種特異的な歌は同種の探索から求愛行動において近縁他種との交尾を避ける上でも重要な役割を果たしていると考えられている。
本研究ではコオロギの体の各部位が繁殖成功率に及ぼす影響と、その部位ごとにどのような遺伝子が機能しているかを示す。実験には入手が容易であり、ヨーロッパイエコオロギを用いた。ヨーロッパイエコオロギは爬虫類の餌としてよく利用されるほか、食用コオロギとして認可の下りているコオロギであり、タンパク源としての資源利用が期待されている。繁殖は容易であるが、しばしば共食いを行い、身体の各部位が欠損してしまうことがよくある。体の各部位(触覚、翅、前脚、中脚、後脚、尾葉、産卵管)を切断し、それによって繁殖成功率がどのように変化するかを調べた。その結果、触覚と尾葉の切断は繁殖成功率に対して重要であることが示唆された。また翅を切断しても繁殖成功率に影響は少ないことが示唆された。
ヨーロッパイエコオロギの歌は同種の探索にはおそらく有用であるが、目の前の交尾相手を同種と認識し交尾に至る過程では、触覚や尾葉とといった直接相手に触れる感覚器官の方が繁殖成功率に大きく影響を及ぼしていた。これらの結果はコオロギを家畜化する上でどのような形質を残したり消すべきかの判断の一助になるだろう。