| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-090  (Poster presentation)

カナダ北極域で頂点捕食者のシロフクロウがもたらす植物多様性【O】
Plant diversity hotspot is maintained by the foundational top predator, snowy owl, in the Arctic【O】

*西澤啓太(東京大学), 仲美凪(横浜国立大学), 増本翔太(筑波大学), 内田雅己(国立極地研究所), 森章(東京大学)
*Keita NISHIZAWA(The University of Tokyo), Minagi NAKA(Yokohama National University), Shota MASUMOTO(University of Tsukuba), Masaki UCHIDA(NIPR), Akira MORI(The University of Tokyo)

 “草食動物(植食者)と植物”の関係性は広く知られるが、“肉食動物(捕食者)と植物”に関する知見は非常に限られている。捕食者が植物に及ぼす影響は、植食者を介した間接的な影響と、自らの糞尿などによる直接的な影響がある。この間接的な影響は広く調べられているが、直接的な影響の多くは知られていない。これは、森林などの富栄養かつ複雑なシステムでは、捕食者の糞尿等の影響は相対的に大きくなく、目立たないことに起因する考えられる。一方で、極端に貧栄養の生態系においては、その限りでない。
 北極圏は世界で最も生産性の低い生態系の一つである。この低い生産性の直接的かつ最も影響の大きい要因は、土壌の貧栄養と知られている。このような極端に貧栄養の生態系では、動物と植物の関係性が他地域に比べて顕著に観察される。例えば、草食動物による採食は、成長量の少ない植物に大きな打撃を与える。一方で、糞尿は貧栄養環境に無機塩を供給し、植物の成長を促進する要因として重要な役割を担っている。一般的には軽視されがちな“捕食者と植物”の関係性だが、この貧栄養の北極においては、生産性や多様性に大きな影響を及ぼす可能性がある。
 そこで本研究では、カナダ北極圏における捕食者と植物の関係性の解明を目的とした。高木が生えない北極ツンドラ域では、シロフクロウ等の肉食性鳥類は見晴らしのいい丘の頂上に滞在して狩りを行う。この場所で集中的に落とされる糞尿や食べ残しが、貧栄養の土壌環境や植生に与える影響を調べた。
 結果として、肉食性鳥類のとまり場に近づくにつれ、短い距離で植物の種組成が大きく変化することが示された。具体的には、中心部に近づくにつれ、優占種が矮性低木から草本、グラミノイドへと段階的に変化していく傾向が見られた。また、このとまり場で見られる多くの種は景観内にほとんど見られないレア種であり、肉食性鳥類の存在が長期的に北極の植物の多様性を支えている可能性が示された。


日本生態学会