| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-091 (Poster presentation)
植食者と天敵のような敵対関係(食物連鎖)から成る動物群集と植物と送粉者のような共生関係から成る群集の研究は、群集生態学において別個の枠組みで発展してきた。しかし、送粉動物の誘引に向かって進化した動物媒花は、副次的に天敵や植食者にも有用な食料資源をもたらし、また天敵にとって効率的な狩場を提供する。このことは、植物と送粉者の共生関係が食物連鎖に波及効果をもたらすことを示唆するが、この効果の自然生態系における一般性や重要性についてはほとんど明らかにされていない。
花という資源が食物連鎖に与える影響について理解するためには、種間の形質差だけでなく、時空間的な変動性も大きいという特徴を考慮することが不可欠である。都市は緑地が非連続的に分布することから、植物を利用する動物の利用可能な範囲が明瞭であり、空間要素の影響の検証に適している。そこで本研究では、都市公園のソメイヨシノの枝葉上の節足動物を対象とし、付近の花の組成や多様性の時空間的変動が捕食―被食から成る群集に影響を与えるのか、そしてその効果は周囲の景観によって異なるのかを検証した。調査は茨城県つくば市と土浦市の14公園において、4月後半から8月にかけて、8回実施した。
ソメイヨシノの枝葉から、18目147科349種6734個体の節足動物が回収された。10回以上採集された節足動物の科において、文献に基づいて機能群(徘徊性天敵・飛翔性天敵・植食者・放浪者の科数)と訪花性の有無を分類した結果、81.3%の科で訪花性が認められた。花種数は全ての機能群の科数に対し正の効果があり、また景観要素との交互作用がみられた。さらに徘徊性天敵の科数では花組成の時間的な非類似度、植食者と放浪者の科数では花種数の時間的変動を含むモデルの方が、より予測性が高かった。花群集の開花動態が樹木上の動物群集の多様性に波及効果をもたらすこと、そしてその効果は周囲の景観に依存することが示された。