| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-092  (Poster presentation)

オトシブミの踏査阻害機構:切れ込んだ葉はどのように踏査を阻害するのか
Exploring the deterring mechanism by leaf shape against a leaf-rolling weevil

*樋口裕美子(東京大学)
*Yumiko HIGUCHI(The University of Tokyo)

植食性昆虫は一生を通じて植物を様々な形で利用する。そのため、寄主植物の形質は植食性昆虫の生態や行動に影響を与えうる。葉の形は植物の示す多様な形質の一つだが、植食性昆虫に与える影響について調べられることは少ない。
本研究では、メス成虫が産卵時に葉を巻き「揺籃」を作るオトシブミ科昆虫ムツモンオトシブミに着目した。本種は主にシソ科ヤマハッカ属植物の葉を摂食して揺籃を作る。発表者は以前、本種がヤマハッカ属の一種、ハクサンカメバヒキオコシの葉を揺籃にあまり用いないことを見出した。これはハクサンカメバヒキオコシの切れ込んだ葉の形が原因と考えられ、ハクサンカメバヒキオコシ上では、メス成虫は揺籃作成初期に行う葉上の歩行(ここでは踏査と呼ぶ)の段階で揺籃作りをやめる確率が高いことがわかっている。
しかし、ハクサンカメバヒキオコシの切れ込んだ葉の形がメス成虫の踏査にどのように作用して揺籃作りをやめさせるのかは、具体的にわかっていない。踏査は左右交互に規則的に複数回周回することによって行われ、メス成虫は踏査で葉の形が適切かどうかを調べ、葉を裁断する位置を決める。ハクサンカメバヒキオコシの複雑に切れ込んだ葉の形はメス成虫の規則的な周回を妨げ、その結果メス成虫は葉の裁断位置を決定できず、以降の加工段階に進まないのかもしれない。
本発表では、室内にてメス成虫の踏査行動を(1)ハクサンカメバヒキオコシと、同所的に生育する切れ込みのないクロバナヒキオコシの種間(2)ハクサンカメバヒキオコシの葉を加工した処理間(3)切れ込みの程度の異なるイヌヤマハッカ変種群間について記録し、踏査成功率や踏査経路を比較した。これにより、ハクサンカメバヒキオコシの葉の形がムツモンオトシブミの踏査行動にどのように影響しているのか議論する。


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