| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-094  (Poster presentation)

嚢舌類3種における人為的切断後の大規模再生【O】
Whole-body regeneration in three sacoglossan sea slugs following artificial cutting【O】

*三藤清香, 保田海, 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Sayaka MITOH, Umi YASUDA, Yoichi YUSA(Nara Women's Univ.)

嚢舌類のウミウシは、食藻の葉緑体を体細胞内に取り込み、光合成に利用することで知られる(盗葉緑体現象)。この嚢舌類において、心臓を含む首元から後方を自切によって切り離し、頭部から全身を再生するという大規模な自切・再生現象が、近年発表者らによって報告された。自切は自切面となる首元を糸で軽く縛ることでも誘導可能であり、さらに人為的に自切面で切断しても全身再生がおこることが確認されている。また、全身再生には嚢舌類のもつ盗葉緑体能が関与しており、嚢舌類全体で同様の能力がみられると推測されているが、大規模再生が観察されているのは、コノハミドリガイとクロミドリガイの2種のみである。そこで本研究では、盗葉緑体能をもつ嚢舌類3種群(コノハミドリガイ種群およびチドリミドリガイ種群から各2種とヒラミルミドリガイの計5種)を首元で切断し、再生の様子を比較した。その結果、切断したすべての種で心臓の再生が確認された。コノハミドリガイにおいて、再生にかかる日数は自切の場合とほとんど差がなく、頭部および体部の生存日数についても同様であった。また、コノハミドリガイとチドリミドリガイ種群の各隠蔽種間でも再生や生存の日数に明確な差はみられなかった。また、チドリミドリガイでは切断後に餌を与えなかった個体も再生をおこない、再生や生存の日数は餌を与えた個体とほとんど差がなかった。以上より、盗葉緑体能をもつ嚢舌類の他種でも大規模再生がみられることが確認された。さらに、高い盗葉緑体保持能をもつ種であれば摂餌なしでも長期の生存と大規模再生が可能であったことから、盗葉緑体現象が嚢舌類の自切・再生に関与している可能性が高まった。なお、実験中にチドリミドリガイの切断された体部が産卵した。これは、自切後の適応度や自切・再生の意義に関わる重要な知見である。


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