| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-098  (Poster presentation)

タチガシワはアリに類似した花香で労働寄生性双翅目の送粉者を誘引する
Ant-like floral scent attracts kleptoparasitic fly pollinators in Vincetoxicum magnificum

*Ko MOCHIZUKI(The University of Tokyo)

擬態花は系統的に離れた様々な植物にみられ、異性、食物、繁殖場所などのモデルが知られる。とりわけ、双翅目昆虫に送粉される擬態花は、腐肉やキノコ、アブラムシなど、送粉者の生活史に合わせた複数の擬態モデルが知られている。しかし、送粉者として知られる双翅目は70科を超え、その生活史は極めて多様であることを考えると、双翅目が関与する擬態花の誘引戦略の多様性は十分に理解されているとはいえないだろう。
 本研究では、関東~東北に産するキョウチクトウ科の多年草であるタチガシワの興味深い擬態花を報告する。予備観察から、発表者は本種がキモグリバエ科やヌカカ科、シロガネコバエ科に訪花されることをみつけた。これらの双翅目は、クモやカマキリなどの捕食者によって捕らえられた昆虫などを吸血する労働寄生性の生活史を有する。このことから、本研究では、タチガシワの花が死んだ昆虫に擬態しているのではないかという問いをたて、検証を行った。
 まず、自生地で約100時間の観察を行ったところ、トゲヘリキモグリバエなどのキモグリバエ科の3種が送粉を担うことを発見した。次に、花香を昆虫のフェロモンと照合したところ、タチガシワの花は、アリ科、オサムシ科、カメムシ科と高い類似性を示した。これら3科35種を自生地で採集し、刺激した/つぶした/捕食させた時の匂いを花の匂いと比べたところ、クロヤマアリとハヤシクロヤマアリが、主要成分を含む9成分を共有することが分かった。続く行動実験から、タチガシワの匂い成分(≒アリの匂い成分)は訪花者と同じ分類群を誘引することが分かった。
 以上のことから、タチガシワは、クロヤマアリ・ハヤシクロヤマアリという最普通種のアリが捕食された状況に擬態することで、送粉者を誘引する可能性が示唆された。本研究は、擬態花のモデルの多様性の理解を深めるだけでなく、植物で初めてアリ擬態の可能性を見出した。


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