| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-101 (Poster presentation)
環境勾配にそった生物の分布パターンは環境要因と生物間相互作用が複合的に作用し形成されると考えられている。しかし実際の生物の分布パターンの形成におけるそれらの相対的な重要性は依然として未解明な部分を多く残している。この研究では同一の山地の中で共存する近縁樹木2種の垂直分布のパターンに着目し、その分布を単独分布する山地と比較することで、垂直分布のパターン形成における環境要因と生物間相互作用の役割を類推することを目指した。研究では九州の10ヶ所の山地を対象に両種の垂直分布を現地踏査し、またその分布と環境要因(気温・降水量)の関係を調べた。2種の在不在は山地ごとに異なっており、両種が共存する山地(九州山地や霧島山系の一部)、ヒメシャラのみが分布する山岳(屋久島など)、ナツツバキのみが分布する山岳(高隈山系など)がある。調査の結果以下のような傾向が確認された。
1) 2種が共存する山地では標高の高い場所にナツツバキが分布し、低い場所にヒメシャラが分布する傾向が見られた。一方で、標高に沿った2種の棲み分けの程度は場所によって異なっており、2種の分布が比較的明瞭に棲み分ける場所と標高の高い場所で2種が混生に近い状態になる場所の双方がみられた
2) 単独生育地のナツツバキの分布下限標高は共存地のそれよりも低く、また気温もより高い場所であった。一方で単独生育地のヒメシャラの分布上限標高は共存地のそれよりも高くなる場所もあったが、気温でみた場合に共存値よりも寒冷な場所に拡大している傾向はみられなかった。
以上のことから、ヒメシャラの垂直分布の上限は気温のような環境要因の影響を比較的強く反映していると考えられた。一方で共存地域におけるナツツババキの分布下限はヒメシャラが分布することで何らかの形で制限されている可能性が考えられた。