| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-104  (Poster presentation)

湿原のpH環境におけるミズゴケの陽イオン交換を通じた酸性化の影響
Influence of the cation exchange of Sphagnum on the pH environment of mire

*中村隆俊, 白塚潤(東京農業大学)
*Takatosi NAKAMURA, zyun SHIRATSUKA(Tokyo Univ. of Agriculture)

 一般に、湿原はスゲやヨシが優占するフェンからミズゴケが地表面を覆うボッグへと遷移するが、その遷移に伴い土壌が強酸性化し湿原植物の生態生理的振る舞いや分布は大きく変化する。ゆえに、湿原のpH環境はフェンやボッグの維持メカニズムを議論するうえで、重要な主題であるといえる。
 湿原の強酸性化は、ミズゴケによる陽イオン交換(CEC)との関連性が古くから指摘されている。ミズゴケは根を持たないため、シュートの表面全体が栄養塩類の強力な吸着サイトとなっており、シュート周辺の陽イオンを体内由来のH+で置き換えることで吸着・吸収を行っている。その陽イオン交換で放出したH+が周囲の低pH環境をもたらしていると考えられてきた。一方で、湿原の弱酸性〜弱アルカリ環境は、Ca2+等の塩基性ミネラルイオンがpH上昇要素として作用することで維持されていると考えられている。ゆえに、湿原の植生分布とpH環境の関係において、塩基性ミネラルイオンの重要性は古くから強調されてきた。
 pH環境の維持において、ミズゴケCECによるpH低下作用と、塩基性ミネラルイオンによるpH上昇作用はともに不可欠な要素であると考えられるが、両者を同時に考慮しその振る舞いが解析された例はない。さらに、ミズゴケCECについては、ミズゴケのシュート密度や被度の広がりを考慮した定量的データがほとんど存在しない。本研究では、湿原の土壌水pHに対する面積あたりのミズゴケCECと各種ミネラルイオン濃度の関係について解析した。
 フェンからボッグへのpH変化に対して、Ca2+濃度が最も強く関与し、次にミズゴケCECと地下水位の交互作用が密接な関係を示した。低水位環境下では、土壌深層に多いCa2+が表層に供給されづらくなるため、ミズゴケCECがpH低下要因としてより有効に作用することが示された。また、高水位環境下では、深層のCa2+が表層に供給され強力なpH上昇要因として作用していることが示された。


日本生態学会