| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-105  (Poster presentation)

中部山岳における2500mの標高傾度に沿った森林の構造と種組成の変化
Change in forest structure and species composition along a 2500-m elevational gradient in central Japan

*今井伸夫(東京農業大学)
*Nobuo IMAI(Tokyo Univ. Agriculture)

林冠高や地上部バイオマスは、熱帯山地では標高上昇(気温低下)とともに概ね直線的に低下する。一方、暖温帯から冷温帯、亜寒帯へという緯度傾度に沿って気温が低下しても、林冠高などは比較的高いまま一定であることが知られている。これは、緯度傾度に沿って常緑広葉から落葉広葉、常緑針葉樹へと生活型が変化するが、この季節性対応型の生活型(落葉広葉および常緑針葉)へのシフトが、気温低下による林分構造への負の影響を弱めているためだと考えられている。
温帯山地でも、標高上昇とともに、緯度傾度と同様の生活型のシフトが見られる。そのため、熱帯山地と異なり、温帯山地では標高が上昇しても林冠高などは比較的高いまま一定であると予想される。しかし温帯山地では、多様な生活型を含む幅広い標高レンジで、生態系構造の正確な定量に求められる大きなプロット(例:1 ha)を用いた標高傾度研究はほとんどない。そこで、伊豆半島と南アルプス・北岳の標高150-2650 mの5か所に1 haプロットを設置し、種多様性と林分構造を調べた。また、それらの変化パターンを、メタ解析により熱帯・温帯山地間で比較した。
地上部バイオマスは、150(シイ・カシ林)と500m(カシ林)で高く、1100(ブナ林)と2100m(モミ属針葉樹林)で中程度、2650m(モミ属針葉樹林)で低かった。林冠高は、150から2100mは概ね一定で、2650mで急減した。種多様性、腐植層の厚さや細根バイオマスは、標高上昇とともに低下した。メタ解析の結果、林冠高は、熱帯山地では標高上昇とともに直線的に低下したが、温帯山地では本研究と同じく低地から中標高にかけて一定だった。林冠高や地上部バイオマスは、温度(有効積算温度)を揃えると熱帯より温帯山地の方が高かった。このように温帯では、季節性対応型の生活型へのシフト(樹種交代)により、林分構造への気温低下の悪影響が緩和されていると考えられた。


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