| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-106 (Poster presentation)
熱帯多雨林の多樹種共存は生態学の重要な課題である。Lotka-Volterra競争方程式 (LVC)では多種の共存は説明し難いとされてきた。しかしLVC方程式の競争係数を競争強度と感受性の積として定義するShigesada-Kawasaki-Teramoto競争(SKTC )方程式 (J. Math. Biol. 1984) では多種系の大域的漸近安定解が存在し得る。私たちはSKTC方程式をマレーシア・パソ熱帯多雨林の50-haプロット・データに適用して、樹木群集の現存量動態を解析した。各種の葉量が競争強度を表すと前提した。1-haサブプロット間の変異を用い、各種の局所(=サブプロット)個体群の1990–2000年の間の材生産速度が自種と他種の葉量により抑制される回帰モデルによって、各種のSKTC係数を推定した。対象486種のすべてで自種の葉量への感受性が他種の葉量への感受性より高かったため樹木群集は大域的な安定平衡解を持ち、370種が共存して116種が排除された。被排除種は観測された相対現存量成長速度が低い傾向を示した。共存種の平衡現存量分布は観測された現存量分布をおおむね再現した。サブプロット・サイズや対象観測期間を変えても同様の解析結果を得た。局所個体群の現存量は、同種の局所最大個体現存量を反映し、また個体の相対現存量成長は個体サイズに伴って減少した。そこで、期間生存個体の現存量成長が種と個体サイズとサブプロット全葉量に抑制される回帰モデルを用いて、期末個体現存量を推定したデータを作成した。この推定成長データによるSKTC方程式の解析は、観測データによる解析をよく再現した。これらから、個体相対成長速度のサイズ依存的減少と樹木個体分布の時空間変異が、多種の安定共存をもたらすことが判った。SKTC方程式を観測データに適用した本研究は、種多様性と群集安定性を結びつけるあらたな理論的枠組みを提供した。