| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-110 (Poster presentation)
台湾は日本南方に位置し、沖縄本島から約700km離れている。台湾は九州よりやや小さいほどの面積の島であるが、海抜0mの亜熱帯域から3000m級の亜高山帯まで多様な気候帯を有している。
日本と共通の植物が数多く分布している場所としても知られており、古くはその植生について、鈴木時夫(1952)の「東亜の植生」で記述されている。近年はZelenyら台湾研究者による研究もされている。しかしながら、植物群落について種組成の観点から植生を把握した研究はまだ十分とは言えない。特に低海抜地は台湾の殆どの地域が開発され、残存する保存状態の良い森林は非常に少ない。従来の研究では台湾低地の植生タイプについてはその相観レベルのとどまっている感が否めない。
そこで、本研究では台湾低地における比較的自然状態の良い植生が残存する非石灰岩中庸立地の林分を中心に植生資料を収集する機会が得られたため、その種組成における特徴や日本との関連性について検討することを目的とした。
植生調査は植物社会学的方法のブラウン-ブランケ(1964)に基づいて行った。調査地は台北、台南、恒春である。調査地のほとんどは海抜30~500mの範囲に相当し、すべて常緑広葉樹林であった。
植生調査の結果、最も北に位置する台北の植生は、日本との共通種が平均65%にのぼり、78%にまで達する森林群落さえあった。これに対して台湾最南端の恒春では平均40%程度であり、Champereia manillana(カナビキボク科)やAglaia elliptifolia(センダン科)のような熱帯系植物やCastanopsis formosana、C. indicaといった日本と共通な属ながら日本に分布しない種の出現によるフロラの違いによると考えられた。ただし、高頻度で出現する種群の属性から、台湾南方においても東南アジア熱帯林よりも東アジアの植生タイプに近い。
また、これらの台湾植生調査結果から、沖縄を含む日本南方における森林タイプの潜在自然植生について再考の余地があるものと考えられた。