| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-117 (Poster presentation)
落葉広葉樹種のブナ(Fagus crenata)の種子は積雪下において発芽し、幼根と下胚軸を土壌に伸長している(以下、積雪下発芽)。積雪下発芽の適応的意義の解明を目的とする研究を行い、温暖化に伴う積雪量の減少によって消雪時点での幼根長が短くなった場合に与えられる、実生の生存率への影響を予測した。
消雪直後の落葉広葉樹林では、土壌表面の土壌水分が喪失しやすいため、幼根が短い実生が乾燥死する可能性がある。「消雪時に発芽長(=幼根長+下胚軸長)が長い実生ほど土壌水分を獲得しやすいため、生存率が高くなる」という仮説を検証するために、野外実験を行った。落葉除去区と対称区を各5方形区設定し、積雪前(2022 年 11 月中旬)にブナ種子を 120 個ずつ設置した。消雪後(2023 年 4 月下旬)の4 日以内に種子を回収し、生死の確認と発芽長の測定を行った。R の一般化線形混合効果モデルを用いて、応答変数を「生存率(2値データ)」、説明変数を「発芽長」、「落葉の有無」、「2変数間の交互作用」、ランダム効果を「方形区」とした統計分析によって⑴と⑵の予想を検証した。⑴ 発芽長が長いほど生存率が高い。⑵ 落葉が除去されると土壌表面が乾燥し、発芽長が同じ実生を比べた場合に、落葉がある場合よりも生存率が低くなる。
発芽長が長いほど、また落葉がある林床の方が高い生存率を示したことから、予想⑴と⑵が支持された。「発芽長が長い実生ほど利用可能な土壌水分量が多いため土壌表面が乾燥した場合の生存率が高くなった」ことと、「土壌含水率が低い林床では、土壌中に幼根をより長く伸長して土壌深くから吸水することが適応的である」ということが考えられる。
本研究では、ブナ実生が積雪下において幼根・下胚軸を土壌中に伸長させておくことによって、消雪直後の落葉広葉樹林林床における生存率が高まるという、積雪下発芽の適応的意義が示唆された。