| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-121  (Poster presentation)

落葉フタバガキ林における無毛型Terminalia alataの複合適応形質
Complex adaptive traits of glabrous Terminalia alata in Deciduous Dipterocarp Forest

*伊藤江利子(森林総研), 菊地賢(森林総研), 古家直行(農水技会), Bora TITH(FA, Cambodia)
*Eriko ITO(FFPRI), Satoshi KIKUCHI(FFPRI), Naoyuki FURUYA(AFFRC), Bora TITH(FA, Cambodia)

季節性熱帯の落葉林で普遍的に認められる最乾季の展葉現象は季節性熱帯のパラドックスとして関心を集め、資源競争下での適応的フェノロジーとされてきた。カンボジアの季節性熱帯落葉林に生育するTerminalia alata(シクンシ科)には形態的に異なる二型(有毛型・無毛型)が存在する。二型は葉面の軟毛の有無で区別される他、展葉時期が顕著に異なる。有毛型は他樹種と同様に落葉直後の最乾季に展葉するが、無毛型は大幅に遅れて雨季の半ばに展葉する。無毛型が示す遅延展葉フェノロジーは季節性熱帯としては極めて特異的である。二型の違いは分布する微地形にも認められ、緩やかな起伏を繰り返す河岸段丘において、無毛型が土壌の薄い乾燥立地である丘陵部で頻出する一方、有毛型は平坦部に出現した。無毛型の特異的な遅延展葉の適応的意義は乾燥立地への適応であると予想された。そこで本研究では二型の形質特性を比較し、無毛型の遅延展葉戦略を構成する複合適応形質(遅延展葉・無毛化・高木化)を定量的に明らかにすることを目的とした。二型の葉毛密度の違いは走査電子顕微鏡による観察で明瞭に認められた。無毛型の葉寿命は遅延展葉により有毛型の60%に短縮し(11.5ヶ月→7ヶ月)、葉面積重は無毛化により有毛型の70%に減少した。無毛型の中型個体では一部で高木化傾向が認められた。無毛化と高木化は乾燥耐性を下げ、無毛化は被食防衛能力を下げるが、遅延展葉は乾燥・被食への時間的逃避として機能する。一方、遅延展葉は葉寿命の短縮、雨季下の光合成、通常展葉樹種からの被陰により葉の光合成収支の悪化を招きうるが、無毛化による葉生産コストの削減と高木化による被陰影響の緩和により光合成収支の改善が期待できる。無毛型の複数の形質は協調的に積み重なり、遅延展葉による時間的な乾燥回避を核とした乾燥立地へのフェノロジー適応戦略を構成していると考えられる。


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