| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-126 (Poster presentation)
一斉開花現象は、数年周期で多くの植物個体が同調的に花や種子を大量生産する現象である。一斉開花の生理学的メカニズム(至近要因)として、資源収支仮説が重要視されている。この仮説は、植物が経年的に資源を蓄積する中で貯蔵資源量(炭素や窒素)がある一定の閾値に達した時に繁殖が起こるとして、数年周期での大量開花・結実を説明するものである。繁殖と関連する資源通貨として、窒素の重要性を指摘する研究もあるが、多くの分析は樹木種を対象に行われており、草本種を含めた包括的な検証が必要である。本研究では、多年生草本植物バイケイソウの一斉開花周期における資源収支仮説の妥当性と繁殖に関連する資源通貨を明らかにすることを目的とした。
落葉樹林下に生育する個体群で、標識した52個体について2013〜23年に地上茎の体積(個体サイズの代替指数)と繁殖の有無を経年的に測定し、両者の関連性を解析した。そして、炭素と窒素(濃度・含有量)に関して、繁殖個体と非繁殖個体間で地上部への投資量と地下部(根茎)の貯蔵量を比較した。
個体サイズは繁殖の翌年に大幅に低下したが、その後の経過年数と伴に徐々に増加し、あるサイズにまで回復した年に再び繁殖が起こった。この結果は、本種の一斉開花の至近要因として資源収支仮説の妥当性を示している。繁殖個体の炭素濃度と重量は、非繁殖個体と比べて地上部で大きく、地下部では小さかった。一方で、窒素濃度と重量は、繁殖個体と非繁殖個体間で一貫した違いは見られなかった。従って、繁殖と関連する資源通貨として、炭素の重要性が示された。バイケイソウ個体群における一斉開花周期は、炭素を通貨とした資源収支仮説で説明できることが示された。