| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-130  (Poster presentation)

性転換する植物カントウマムシグサ(サトイモ科)の雄・雌花序を両方咲かせる畸形個体
A malformation of sex-changing plant Arisaema serratum (Araceae) produces both male and female inflorescences

*松本哲也(茨城大学), 藤里竜平(熊本県), 杉山宗隆(東京大学), 宮﨑祐子(岡山大学), 邑田仁(東京大学)
*Tetsuya MATSUMOTO(Ibaraki Univ.), Ryohei FUJISATO(Kumamoto Pref.), Munetaka SUGIYAMA(Univ. Tokyo), Yuko MIYAZAKI(Okayama Univ.), Jin MURATA(Univ. Tokyo)

サトイモ科テンナンショウ属は,体サイズ (= 個体内資源量) が閾値を超えると,雄から雌 (もしくは両性) へ性転換する.多くの種は毎年1個体に1花序だけが形成されるため,性転換は個体単位で生じているように見える.しかし,雄花序と雌花序が同時に着いたという報告も,ごく少数存在する.これらの事例では,開花後に球茎が内部から分裂したり,地下部が根茎状に分枝したりするなど,見かけは1個体だが実際には生理的に独立した複数個体だった可能性も否定できず,「個体単位での性転換」に対する厳密な反例とは言えない.そこで本研究では,テンナンショウ属の性転換が個花,花序,個体のどの単位で生じるかを推定するため,複数花序を同時に着けるカントウマムシグサ畸形個体のシュート構造を3年にわたって追跡した.その結果,1年目は基部の癒合した2個の雌花序が,2年目は完全に独立した雄花序と雌花序が1個ずつ着き,3年目には花序が形成されず枯死した.葉序パターンの経時的変化から,帯化によって異常に拡大した茎頂が分裂することで複数花序の形成を引き起こしたと推察された.3年間を通して球茎の分裂や分枝は生じなかったため,同時に形成された2個の花序原基は1個の球茎を資源供給源として共有していた可能性が高い.2年目時点での体サイズは通常個体の性転換閾値を超えていたが,閾値の2倍 (単純には雌花序2個の形成に必要な資源量) には達していなかった.個体内に雄花と両性花が共存する植物では,同じシュートに咲く花の間で資源を巡る競争が存在し,資源不足が雄花化を誘導する.本個体でも球茎内資源の奪い合いが異なる性表現を誘導したと仮定すると,個花単位で性転換が起こるなら両性花序が2個形成されるところ,2年目に形成されたのは純粋な雄花序と雌花序だった.したがって,テンナンショウ属の性転換は個花ないし個体ではなく,花序単位で生じると考えられた.


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