| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-132  (Poster presentation)

ナニワズの雌花と両性花での発現遺伝子比較
Comparative transcriptome analysis in female and hermaphroditic flowers of Daphne jezoensis

*柴田あかり(京都大学, 北海道大学), 工藤洋(京都大学)
*Akari SHIBATA(Kyoto Univ., Hokkaido Univ.), Hiroshi KUDOH(Kyoto Univ.)

被子植物の多くは両性花をつけるが、雌しべまたは雄しべの機能が欠損した単性花(雄花、雌花)をつける種もある。ジンチョウゲ科ナニワズには、雌花のみをつける雌株と、両性花のみをつける両性株がみられる。雌花も雄しべを持つが、花粉を作ることができない。両性花は形態的には雌花と同等の雌しべを持つが、結実能力が著しく低い。雌株と両性株の遺伝子発現の違いを網羅的に比較することができれば、花器官発達や性特異的機能の仕組みの理解につながる。そこで本研究ではナニワズを対象に、(1)遺伝子発現解析を行うためのリファレンスを作成し、(2)性・時期・部位特異的に発現する遺伝子を特定した。
 ナニワズの複数組織での発現遺伝子の配列情報からコーディング領域のリファレンスを作成し、RNA-Seqで得られたリードがどの遺伝子に由来するかを決定するために用いた。花芽と葉の展開期(9月)、積雪前(11月)、開花直前(翌4月)に、つぼみと葉で発現している遺伝子を網羅的に調べた。その中から、性・時期・部位特異的に発現した遺伝子を抽出し、既知遺伝子の配列との類似性から機能を推測した。
 各部位で性・時期特異的に発現する遺伝子が見られた。特に、雄しべで発現する遺伝子に大きな性差がみられた。11月と翌4月の雄しべでは、それぞれ1002と2317の遺伝子が雌花よりも両性花で発現上昇しており、921と1632の遺伝子が両性花よりも雌花で発現上昇していた。翌4月の両性花の雄しべでは、花粉発芽や花粉管伸長に関する遺伝子群の上昇が見られた一方で、雌花の雄しべでは、水欠乏やアブシシン酸への応答に関する遺伝子群が上昇していた。これらの性差は形態にも見られたことから、今回の解析により、実際に花の性差をもたらす遺伝子セットを得られたといえる。形態からは分からないが発現に性差のある遺伝子も多く得られた。今後、植物ホルモン関連遺伝子など、性差をもたらすメカニズムを調べる準備が整った。


日本生態学会