| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-133  (Poster presentation)

倍数性の異なるコケモモ2タイプの日本における分布と繁殖システム
Distribution pattern and mating system variation of diploid and tetraploid Vaccinium vitis-idaea in Japan

*和久井彬実(富山県中央植物園), 工藤岳(北海道大学)
*Akimi WAKUI(Botanic Gardens of Toyama), Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

コケモモは北半球に広く分布する周北極性高山植物であり、日本はその分布南限を含む。本種は北海道~九州の高山帯に生育するほか、北海道~東北では風穴地や湿原などの低標高域にも局所的な個体群が存在する。これまでの研究から、北海道には高山に生育する2倍体、低標高に生育する4倍体という異なるエコタイプが存在し、4倍体は自殖能力を有することが明らかになった。本研究では、日本全国の異なる緯度、標高、生育環境に分布するコケモモ個体群36地点の比較から、2タイプのコケモモの分布パターンと繁殖システム変異の全貌を明らかにすることを目的とした。
それぞれの個体群において、20-30個体から葉と種子を採取し、マイクロサテライト領域の遺伝解析により遺伝多様度と自殖率を推定した。また、種子を発芽させた実生を用いてフローサイトメーターによる倍数性測定を行った。更に、潜在的な自殖能力や花粉制限の程度を明らかにするため、12個体群において受粉実験を行った。
倍数性測定の結果、高山帯の個体群は2倍体、低標高の個体群は殆ど4倍体であった。4倍体個体群は東北の風穴地が南限で、2倍体個体群は九州の高山帯まで分布していた。2倍体、4倍体個体群ともに、本州の個体群では遺伝多様度が低下する傾向がみられ、4倍体や中部以南の2倍体では自殖率の高い個体群が多くみられた。一方で、受粉実験を行った結果、どの個体群でも2倍体は強い自家不和合性を示し、4倍体は高い自殖能力を示した。中部以南の2倍体個体群は、自殖能力は低いものの、花粉制限が強いため自然状態での自殖率が比較的高いと考えられる。以上の結果から、日本のコケモモ個体群は分布末端にかけて遺伝多様性が減少するものの、2倍体、4倍体それぞれの生育環境や交配システムは普遍的であることが明らかになった。


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