| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-135 (Poster presentation)
多年生植物では、一度感染したウイルスが生涯組織内に残存し、しばしば相互作用が数年以上にわたり継続する。我々はこれまでの研究で、多年生草本ハクサンハタザオは高い確率でカブモザイクウイルス(TuMV)に感染していること、組織内のウイルス量が冬の低温で抑制され、春に再増加することを明らかにした。しかしながら、低温域でのウイルス量の変化が宿主の成長や病徴にどのような影響を与えるのかについて十分わかっていない。
本研究では、ハクサンハタザオとTuMVにおいて、低温が植物―ウイルス相互作用に与える影響を明らかにすることを目的とし、ハクサンハタザオ感染個体のTuMVを非感染個体に接種し、暖温(25˚C/20˚C, 12hL/12D)と低温(10˚C/5˚C, 12hL/12D)下で栽培した。その結果、28日目には暖温下でウイルス非接種個体に比べ接種個体に成長阻害とクロロフィル量の減少がみられたが、低温下では差が見られなかった。ウイルスの増殖と全身への広がりは、暖温に比べ低温で抑制されていた。驚くべきことに、いずれかの日でウイルス接種と非接種個体とで有意に発現差のあった遺伝子は低温で3,997個であり、暖温の3,972個とほぼ同程度あった。一方、発現応答する遺伝子の種類は暖温と低温で異なっていた。接種葉において、暖温ではSec23/24などのウイルスの移行促進に関わる遺伝子発現の上昇とともに、28日目にオーキシンや防御関連遺伝子の低下がみられた。一方、低温では初期にストレス応答遺伝子の発現上昇がみられたが、28日目には発現低下する遺伝子については、特定の機能への偏りはほとんど見られなかった。このことから、暖温下で成長抑制や防御・光合成機能の低下が起きるのとは対照的に、低温ではウイルス量の少ない感染初期に防御応答が発動する結果、遺伝子発現レベルでも負の影響がほとんど見られないことが明らかになった。