| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-136 (Poster presentation)
気候変動に伴う気温の上昇により、森林の種組成や構造、機能が不可逆的に変化することが予想されている。一方で、気温の上昇が樹木個体の成長や生理特性にどのような影響をもたらすかについては、特に熱帯樹木において実証研究が不足している。また、温度の影響は土壌養分条件によっても異なる可能性があるが、十分に検討されていない。
本研究では、熱帯・亜熱帯の沿岸域に広く分布するヤエヤマヒルギを対象に、異なる土壌養分条件において、成長速度と個葉ガス交換に関わる14の生理・形態特性の温度応答性を評価した。高温区(昼28°C/夜25°C)と低温区(昼23°C/夜20°C)の2つの温室それぞれにおいて、施肥なし区と施肥あり区(1/2000ハイポネックス)の2つの土壌養分条件を設定し、ヤエヤマヒルギの当年生苗木を2022年7月から2023年5月まで栽培し、測定に供した。
成長は高温区で促進され、個体葉面積も大きい傾向が見られた。ただし、高温区での成長と葉生産の促進は、施肥あり区で顕著だった。個葉ガス交換に関わる生理・形態特性では、高温区において、気孔コンダクタンス、葉クロロフィル含量、比葉面積が高かった一方、光合成水利用効率、葉炭素濃度、気孔密度は低かった。また、今回測定した14の特性の中で、葉クロロフィル含量、葉窒素濃度、葉炭素安定同位比の3つの特性において、温度の影響は土壌養分条件によって異なった。
以上から、ヤエヤマヒルギにおいて、成長と個葉ガス交換に関わる一部の生理・形態特性の温度応答は、土壌養分条件によって異なることがわかった。このことから、気候変動下での森林の成長や機能の予測には、生育場所の土壌環境を考慮する必要があることが示唆された。