| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-137 (Poster presentation)
紅葉は基礎的な文化的生態系サービスであり、重要な観光資源である。既往研究では主に温帯地域において紅葉のタイミング(生物季節)が解析されてきたが、紅葉の色づきの強さに影響する環境要因は研究されて来なかった。本研究では、日本の高山植生におけるウラジロナナカマド等の紅葉の色づきの強さとそのメカニズムを解析し、将来的な気候変動による色づきの変化を予測した。国内3つの調査地における定点カメラ観測データを使用して、紅葉の色づきを可視大気抵抗植生指数(VARI)で測定した。色づきの強さを左右する環境要因は、生育期の気候値など14変数を用いて、線形混合モデルの総当たりモデル選択を行なって解析した。その結果、展葉が早い年に紅葉の色がくすんでしまう傾向が強いことが解明され、これは長い展葉期間から秋時点の葉日齢が高くなり、老化による生理的な活力低下が赤色素(アントシアニン)の生合成に影響を与えた可能性が考えられた。また展葉日は融雪日と相関しており、将来的な温暖化の進行に伴い融雪日と展葉日が早まり、紅葉の色づきが低下することが予測された。VARIの減少量は、MRI-CGCM3 RCP 2.6では数パーセントの減少だったが、MIROC5 RCP8.5では今世紀末までに約15%減少すると予測され、将来の気候モデルとシナリオによって異なった。またVARIの低下が大きい脆弱な地域は、暖かい低標高地域(年平均気温 > 3.5℃)で予測された。先行研究では将来的な紅葉の遅れが休暇シーズンと重なるようになり、観光収入が将来増加する予測も報告されているが、本研究の将来的な紅葉の色づき低下予測は逆に観光収入の減少を示唆している。色づきの強さは紅葉の質的な変化を観測できる重要なツールと考えられ、その生態生理学的メカニズムへのアプローチは、将来的な気候変動の下での適切な高山植生管理・保全とその計画的な利用を向上させる可能性がある。