| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-138 (Poster presentation)
道路沿いに植栽されている街路樹の光合成機能は、自動車から排出される大気汚染物質の影響を強く受ける。大気汚染物質の量は産業活動が低下すると減少することから、街路樹の光合成機能の変化は、産業活動の変化を反映している可能性がある。
道路沿いの大気汚染の大きな要因となっているのが、大型貨物車(トラック)から排出される窒素酸化物である。トラックの通行台数は産業活動が停滞すると減少することから、2020年から始まったCOVID19の流行による産業活動の低下により、トラック通行台数の減少と窒素酸化物の濃度低下が生じたと考えられる。2015年と2021年に日本国内で行われた交通量および大気汚染物質調査によると、2021年は2015年に比べ、トラック交通量は約19%、NO2は約32%も減少している。2023年に入ってからは、産業活動がやや回復したことを反映してか、NO2は増加傾向となっている。
街路樹の葉の炭素安定同位体比から、COVID19 の産業活動への影響を検出できるかどうかを調査した。まず大気汚染物質であるNO2と葉の炭素安定同位体比との関係を調べたところ、低木の街路樹として最も多く利用されているヒラドツツジでは、NO2濃度が高いほど炭素安定同位体比は高くなった。さらに、炭素安定同位体比を、COVID19の影響が大きかった2021年・2023年と、2017年-2019年とで比較してみると、2021・2023年に炭素安定同位体比の偏差が減少していたことから、大気汚染物質による気孔閉鎖が緩和されていた可能性が示唆された。一方、高木の街路樹であるイチョウについては、2017年-2019年と2021・2023年との間で、炭素安定同位体比の偏差に有意差は見られなかった。これらの結果から、ヒラドツツジについては、COVID19による産業活動の低下は街路樹の光合成機能にとってはポジティブな影響をもたらした可能性が示唆された。