| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-139  (Poster presentation)

地上部・地下部呼吸の成長に伴うシフト –樹木にみられる統一性–
Generality of scaling in shoot and root respiration across woody plants

*黒澤陽子(山形大学), 森茂太(山形大学), 山路恵子(筑波大学), 小山耕平(北海道教育大学), 西園朋広(森林総研), 春間俊克(森林総研), 土山紘平(産総研)
*Yoko KUROSAWA(Yamagata Univ.), Shigeta MORI(Yamagata Univ.), Keiko YAMAJI(Univ. of Tsukuba), Kohei KOYAMA(Hokkaido Univ. of Education), Tomohiro NISHIZONO(FFPRI), Toshikatsu HARUMA(FFPRI), Kohei DOYAMA(AIST)

 芽生え~成木の成長を制御する地上部と地下部へのエネルギー配分機構の解明は生態学の中心的課題である。従来、この配分機構は、環境・系統間差に着目して議論されることが多いが、配分はサイズによっても制御される。しかし、芽生え~成木の根系・地上部全体の呼吸を実測した研究は殆ど無く、地上部・地下部呼吸の環境・系統とサイズによる配分制御の兼ね合いは未解明である。
 そこで、芽生え~大木用の様々なサイズの密閉装置(Mori et al. PNAS, 2010, Kurosawa et al. Ann. Bot. 2023)を使用してシベリア~熱帯の多様な環境・系統の樹木97種(落葉樹31種、常緑樹66種)約1300個体の地上部・地下部全体の呼吸を実測し、個体重量との関係の非線形回帰分析を行った。
 多様な系統の97種を含む芽生え~成木の地上部・地下部呼吸と個体重量の関係の分析の結果、両対数軸上で「地上部は上に凸型、地下部は下に凸型」の非線形が最適モデルとして選択された。これは、成長初期に根系へのエネルギー配分を高めて水獲得を優先し、成木になるにつれ地上部への配分を高めて徐々に炭素獲得型へと移行することを示している。さらに、以上の傾向の落葉-常緑間差は小さく、地上部・地下部への配分は系統・環境を超えてサイズで制御されることが示された。
 本研究では、様々な健全性の個体で構成された天然林、人工林や圃場での網羅的なサンプリングの結果、樹冠ギャップ形成による枯死寸前~再生過程で個体呼吸が上昇することを確認した。芽生え~成木の地上部・地下部呼吸スケーリングの系統・環境を超えた統一性は、この個体呼吸の低下と上昇の繰り返しが系統・環境間差を吸収することで生じたと考えられる。本結果は、陸上生態系の物質循環・生産の統一的制御メカニズムへの理解を深める新たな基盤となる。


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