| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-141 (Poster presentation)
陸域生態系での光合成による二酸化炭素吸収量(GPP)を正確に推定することは、炭素フラックスやCO2吸収による気候変動緩和効果の見積もりの観点から非常に重要である。GPPを広域に推定する手法の一つに、人工衛星から地球の反射光スペクトルをモニタリングする衛星リモートセンシング法がある。特に太陽光によって誘起される植生のクロロフィル蛍光(Solar-Induced Fluorescence; SIF)は多くの研究によってその有用性が報告されている。クロロフィル蛍光とは、植物の葉緑体が、光を受けると放出する赤~遠赤色の光であり、その強度は光合成回路の状態を反映するため、SIFはGPPの新たな指標として、また植物の健康状態を広域にリアルタイムで把握できる可能性があると期待されている。しかし、クロロフィル蛍光は葉に吸収されたエネルギーがたどる3経路(光化学反応、熱放散、蛍光)のひとつであり、光化学反応の収率を正確に推定するには熱放散のパラメーターもリモートセンシング指標から推定する必要がある。特に、SIFから野外植生の光合成を正確に推定するには、野外の環境変動にともなって変化する植物ストレス状況に応じた葉の蛍光と光合成、熱放散の特性を調べる必要がある。そこで本研究では、広域で生産力の高い熱帯林林冠部において午後に光合成速度が低下する「昼寝現象」がSIFで検出できるかを検討した。調査はマレーシア半島にあるパソ森林保護区の観測タワーにおいて、代表的な林冠種であるフタバガキ科のDipterocarpus sublamellatusの個葉を対象に、光合成速度、クロロフィル蛍光(熱放散:NPQ)、分光反射(SIF、熱放散指標:PRI)の測定をおこなった。その結果、光合成速度は午後13時~16時頃に大きく低下する「昼寝現象」が確認でき、SIFの上昇も同時間帯で認められた。一方で、熱放散は10時~16時頃にかけて長時間にわたって認められた。以上の結果、SIFは光合成の「昼寝現象」など植物の健康状態を広域に把握できる有用な指標であることが示唆された。