| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-143 (Poster presentation)
植物の組織の凍結は成長を阻害するため、標高傾度に沿った凍結耐性の遺伝的分化がしばしば報告されてきた。その一方で、凍結耐性は低温順化によって可塑的に変化し、成長や繁殖に対してトレードオフ関係にある。そのため、標高生態型間の凍結耐性の遺伝的差異は、順化や生育ステージによって変化する可能性がある。そこで、本研究では常緑草本ハクサンハタザオの標高生態型を対象に、低温順化・脱順化(+開花誘導)・再順化の過程を通してどのように凍結耐性と関連遺伝子の発現が変化するのかを評価した。1回目の低温馴化によって凍結耐性が高まったが、このときに、高標高型が低標高型より有意に高い凍結耐性を示した。この時に乾燥耐性および細胞壁の再構成に関わる遺伝子の発現が高標高型で有意に高かった。その後、暖温に戻すと脱順化し、開花後の凍結耐性は順化前に比べて低くなった。2回目の低温処理による再順化で凍結耐性は高まったが、1回目に比べその程度が弱かった。脱順化開始から2週間後および再順化開始から8週間後に、むしろ低標高型で有意に凍結耐性が高くなった。脱順化時には伸長成長の抑制関連遺伝子が低標高型で、葉老化に関わる遺伝子が高標高型で有意に発現が高くなった。また、再順化時には、低標高型で凍結耐性に関わる遺伝子の発現が高かった。本研究で、1. 冬季の凍結耐性の指標である初回の順化応答において凍結耐性の標高適応がみられること、2. 脱順化後は成長と繁殖が優先され、凍結耐性が低下すること、3. 繁殖後はむしろ高標高型の凍結耐性が低標高型より低下することが明らかとなった。3については、好適期間が短い環境に生育する高標高型では繁殖・成長への投資がより優先されるため、繁殖後は転流に伴う葉老化が起きて凍結耐性が低下した可能性がある。今後、凍結耐性と成長・繁殖間でのトレードオフの検証およびその分子基盤を明らかにする。