| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-144 (Poster presentation)
維管束植物の多くの種が、塩分にさらされると成長速度を低下させることから、植物の成長において塩分応答にコストが必要であることが推察される。一方で、高塩分土壌に適応したマングローブ植物の中には、ある程度の塩分濃度下で成長速度の最大値を示す種がある。マングローブ植物は、高塩分環境で最適な成長速度を保つように生理機能や形態形質を変化させている可能性がある。また、マングローブ植物の分布が熱帯・亜熱帯に限定されていることから、塩分に対する生理生態的な応答が生育温度によって異なっているかもしれない。本研究では、マングローブ植物の中でも耐塩性が高いとされているヒルギ科ヤエヤマヒルギの当年生実生を、異なる塩分濃度(淡水および25%海水)と気温(夜間/昼間:20/23℃および25/28℃)条件下で栽培し、葉と根の相対成長速度RGR、形態形質、構成コストと呼吸速度を計測した。
葉と根のRGRは、いずれの生育温度でも高塩分濃度下で高かったが、生理機能と形態形質の応答は生育温度によって異なっていた。高温下では、塩分濃度の上昇に伴って、比葉面積SLAおよび比根長SRLが大きくなっていた。一方、低温下では、塩分濃度の上昇による形態形質の変化はみられず、純同化率NARが大きくなっていた。また、いずれの生育温度でも、塩分処理で根にミネラルが蓄積することで根の構成コストが低下しており、根乾重あたりの呼吸速度が低下していた。一方、葉では、高温下でのみ、塩分によるミネラルの蓄積と構成呼吸速度の低下が見られた。いずれの生育温度でも塩分処理により葉の維持呼吸速度が上昇していたことから、葉の細胞内での塩分隔離や排出にエネルギーコストが必要であることが示唆されたが、この反応は低温下でより顕著だった。マングローブ植物が気温の高い地域に限定的であるのは、高塩分下で葉の形態形質を変えられることと関係がある可能性がある。