| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-148 (Poster presentation)
樹木の幹の木部形成は季節的に変化する。そのメカニズムやプロセスを知ることは、気候変動下における樹木の幹肥大成長の変化を予測する上で重要である。この一つとして、春先に貯蔵養分を使った木部形成を行うことが知られている。しかし、いつまで貯蔵養分を利用するのかや、種間での違いについては明らかにされていない。年輪内セルロースの安定同位体比の変化は、幹の木部形成に用いられる炭素化合物の由来を反映し、貯蔵養分の利用時期を推定するのに有用である。これまでの研究において、環孔材であり早材の形成が開葉に先立つミズナラでは、早材に貯蔵養分を用い、晩材では当年光合成産物を用いることが示唆された。一方、散孔材のブナは、開葉後に早材形成が開始する。このようなフェノロジーの違いは、春先の貯蔵養分利用の違いにどのように反映されるのだろうか?本研究では、ブナとミズナラの林冠木を用いて、年輪内における水素・酸素安定同位体比(δD・δ18O)の変動を調べた。その結果、ブナでは季節を通してδDとδ18Oの関係性に変化がなく、春先でも貯蔵養分への依存度は小さいことが示唆された。調査地のうち愛媛大演習林(愛大演)では、春先の両樹種の木部形成と開葉のフェノロジー研究から、ミズナラの孔圏道管一列目を除くとこれらのフェノロジーは二種間で類似し、どちらも葉がシンクからソースになった後に木部形成が進むことが示唆されている。愛大演のミズナラとブナでδDとδ18Oの変化を比較すると、愛大演のミズナラは特に早材初期に貯蔵養分を用い、それ以降は当年光合成産物の利用に移行することが示唆された。また、愛大演では、ミズナラの早材初期を除くと二種のδDとδ18Oの値や季節変化はよく一致した。これらの結果は上記のフェノロジー研究の結果を支持しており、ミズナラの早材初期で特に貯蔵養分への依存度が高いこと、それ以外では二種の季節的な変化の相違は小さいことが示唆された。