| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-149  (Poster presentation)

残雪は広葉樹の開葉をどう制御するか? :冬芽吸水能力と土壌由来の水分供給に着目して【O】
Snow controls the leaf out: suppressed water absorption in the winter buds until the snow melt【O】

*庄司森, 吉村謙一(山形大学)
*Shin SHOJI, Kenichi YOSHIMURA(Yamagata Univ.)

 残雪下での樹木開葉の仕組みを生理的なプロセスから解明することは、温暖化による融雪早期化が樹木に与える影響を提示する上で重要である。樹木は冬芽や葉の吸水によって開葉し葉を成長させるため、開葉には枝先への水分供給が必要である。しかし、残雪は土壌を冷却し地下部から樹体への水分供給を制限する。春先に、土壌由来の水を吸水することに制限がある中で、開葉や葉成長に向け冬芽および葉において吸水する仕組みは未解明である。本研究では、地下部由来の水分供給制限が開葉や葉の成長を制御するかに着目し、残雪下で樹木が開葉する仕組みを明らかにする。
春先に多雪林の広葉樹について周辺環境(積雪深/土・気温)を記録し、開葉日と冬芽および葉の含水比の変化を調べた。冬芽の吸水能は、水ポテンシャル(Ψw)に対する細胞の含水量変化で求められるキャパシタンスという指標で表現した。Ψwと細胞の相対含水率を計測することにより得られるPV曲線によって冬芽および葉の吸水能とその変動の要因を調べた。樹木地下部を開葉前に切断し地下部からの水分供給を断った場合の冬芽や葉の吸水能や実際の吸水に与える影響を調べた。
 冬季の気温が低い時期は冬芽が芽鱗に包まれており、冬芽の細胞内の水分が変動することはなかった。春先に気温が上がると残雪で土壌が冷却される中で冬芽での吸水を開始し、吸水開始から約30日後に開葉した。地下部由来の水分を枝先に供給することができなくても、冬芽や葉は気温上昇に伴い細胞壁を弾性に富ませることと細胞内の浸透物質増加させることで吸水能を上げていた。この吸水能の増加により枝先への吸水を促すことで吸水成長を可能にしていた。冬芽の吸水能が上がることに対し、幹に貯水された水分量が開葉に必要な水分量を満たしていれば冬芽が吸水成長でき、開葉にいたることがわかった。しかし、葉の成長時には、枝先で多量の水分要求が生じ、開葉直後から根由来の水分供給が必要であることがわかった。


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