| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-150  (Poster presentation)

冷温帯の樹木・つる植物における春季開葉前の根圧観測
Monitoring of root pressure generated before bud break for cool temperate trees and lianas

*市橋隆自(九州大学)
*Ryuji ICHIHASHI(Kyushu University)

寒冷地の一部樹種において、春の開葉前に導管液に正圧(便宜的に根圧と表記する)をかけて水を押し上げ、冬の間に空洞化した導管を再び水で充たして機能回復する現象が知られる。本研究では簡便かつ効果的な根圧観測システムを考案し、2023年3~4月の1シーズン、九州大学宮崎演習林(冷温帯)の樹木とつる植物計13種39個体に適用して観測を試みた。
測定システムの概要:①幹表面にドリルで2.5mm径の穴を開け、②外径3 mmの中空(エア抜き)ボルトにシールテープを巻いて幹穴にねじ込み、③ボルトの頭を水で満たしたチューブにつなぎ、逆端を小型圧力センサ(PX26-030DV, OMEGA等)につなぎ、④センサの出力をデータロガー(CR1000, Campbell等)で記録。電力はバッテリーで供給。
対象種のうち、樹木4種(ミズキ、ミズメ、アカシデ、ヒメシャラ)とつる植物2種(サルナシ、マツブサ)で明瞭な根圧が観測され、それ以外の樹木5種(ブナ、コハウチワカエデ、ホオノキと環孔材のミズナラ、クリ)とつる植物2種(環孔材のフジとツルウメモドキ)では観測されなかった。先行研究の結果と合わせ、樹木では概ね冬期の通導度欠失の程度が小さい種で根圧がなく、欠失が大きい種は環孔材で、中間的な種に根圧が観測された。根圧はほとんどの個体で3月半ばに発生し始め、日周変動(昼に上がり夜に低下)を繰り返しつつ上昇を続け、2週間程度でピークに達し、4月中旬の開葉開始期に緩やかに、あるいは急激に低下した。ピークの大きさや波形には種間差、個体差があったが、概ねピークが高くて(~200 kPa)一山型の種(ミズキ、ミズメ、サルナシ)と、比較的低く(100~150 kPa)、恐らく気温と対応した変動を示す種があった。ヒメシャラは4月に入ってから、開葉直前の短期間のみ根圧を示した。半数以上の個体において、ピークの根圧は樹冠トップの高さに水を押し上げる強さがあったが、この点において樹種間、あるいは樹木とつる植物の間で偏りは見られなかった。


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