| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-151 (Poster presentation)
複数年にわたって生存する葉から構成される葉群によって樹冠を構成する樹木においては、枝がどの方向に伸長し、生存し続けるかが長期的な葉の生存・生産性に影響を及ぼす。エゾマツは、寒温帯地域における林冠構成種の一つで、常緑の針葉によって葉群を構成する。主幹から直接分枝した枝において発達する葉群は枝の主軸に直交する方向への広がりが小さい。枝の主軸から分枝する枝の伸長方向において、伸長に対して抑制的な過程のあることが一つの可能性として予想される。
複数年の枝の成長に対しては、数年に一度の繁殖が影響を及ぼす可能性がある。エゾマツでは球果形成部位が枝の先端にある。球果形成部位で枝の伸長が低下する可能性を検証する目的で、林冠構成個体の樹冠に登り、枝ごとに撮影した画像をもとに球果形成部位での分枝を調べた。
調査は、2022年秋に北海道後志地域・中山峠付近で行った。林冠構成個体4個体において、2002-2010年に主幹から分枝し、枝主軸が損傷なく伸長した、長さ100-200 cmの枝を対象とした。1個体では4本、他の3個体では5本の枝で2022年の球果および球果の基部痕跡が映るように枝の上面からと左右両側面から複数の画像をデジタルカメラで撮影した。画像において個々の球果およびその痕跡に番号をつけて識別し、球果形成部位での球果数、その部位で分枝・伸長していた当年枝の有無・伸長方向等を記録した。
確認できた球果およびその痕跡の基部付近の部位の数は枝あたり39-121となった。球果の基部で当年枝の存在が確認されない部位は部位数の69-100%であった。いずれの枝においても、球果の基部付近から伸長している当年枝において、枝の軸に対して直交方向に顕著に伸長しているものは確認されなかった。エゾマツの球果生産は、枝の主軸に直交する方向への葉群の拡大に対して抑制的に作用する要素の一つであることが示唆される。