| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-152 (Poster presentation)
高標高あるいは低標高への種子散布(以下、垂直散布)は、植物が気候変動に対応して移動する上で重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、気温が変化するほどの長距離の種子散布の検出は非常に労力がかかるため、その評価は限定的である。近年、種子の酸素同位体を利用して垂直散布を効率的に評価できる手法が開発された。標高が高いほどその場所で生産される種子の酸素同位体比は低くなるため、散布された種子の酸素同位体比を測定することで母樹の標高、さらに垂直散布距離が推定できる。この手法はサクラ類、サルナシなど複数の広葉樹で利用できることがわかっている。しかし、この手法が広葉樹と構造や化学成分が異なる針葉樹でも適用できるかどうかは検証されていない。また、植物の個体差が種子の酸素同位体比に影響するかどうかは検証されていない。植物の個体差の最たるものとして、サイズの違いが挙げられる。植物はサイズによって水を利用する土壌深が異なり、また土壌深によって水の酸素同位体比は異なる。土壌水の酸素同位体比は植物の酸素同位体比の基盤となるため、種子の酸素同位体比は植物サイズによって異なる可能性がある。その場合、植物サイズはノイズとして垂直散布の推定精度を減少させることになる。本研究では、カラマツ(Larix kaempferi)種子の酸素同位体比と標高、植物サイズ(樹木の樹高および胸高直径)との関係を調査した。その結果、カラマツにおいても標高が高いほど種子の酸素同位体比が低くなることが明らかになった。一方で、樹高・胸高直径の影響は検出されなかった。今回の研究結果は、酸素同位体を用いることで、多様な植物系統で垂直散布を高精度で推定できる可能性を示している。