| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-155 (Poster presentation)
樹木が成長を維持する上で、環境変化に合わせて細根(直径 < 2mm)からの水獲得を調節することが重要である。特に資源利用可能性が限られる山岳域では、個根スケールの解剖学的構造変化が、細根における水獲得の効率的な調節に寄与する可能性がある。本研究では、標高勾配に沿った細根の解剖学的構造の種内変動、および変動パターンの樹種間差を評価し、水獲得との関係性を明らかとした。調査は2023年夏季に、長野県に位置する乗鞍岳の標高2000、2300、2500 m地点で行った。2000 mから2500 mにかけて気温・地温および樹木の成長期間は減少する。対象樹種として、各標高に共通した優占樹種であるオオシラビソ(常緑針葉樹)とダケカンバ(落葉広葉樹)を選択した。針葉樹と広葉樹では、細根の解剖学的構造が大きく異なることから、環境変化に対する水獲得の調節機構も異なることが予想される。成木から、次数分類に基づき1-4次根が含まれる細根を採取した。プレッシャーチャンバーを用いて、水の通しやすさを示す根水透過性を測定し、固定液に漬けた後に保冷して実験室に持ち帰った。1-4次根について、横断薄片を作成した。光学顕微鏡を用いて画像を取得し、画像解析ソフトImageJを用いて、水を運ぶ機能と関係する中心柱比および水を取り込む機能と関連する皮層比を評価した。根水透過性の標高応答性は樹種によって異なった。オオシラビソでは、根水透過性が2000 m から2300 mにかけて変化しなかったが、2300 mから2500 mにかけて増加し、水を通しやすくなることが明らかとなった。一方、ダケカンバでは、標高によって根水透過性が変化しなかった。本発表では、解剖学的構造の測定結果を加え、その標高応答性と根水透過性との関係性から、オオシラビソとダケカンバの細根を介した水獲得戦略を議論する。