| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-158  (Poster presentation)

人工知能による植生分類:既存データの活用が拡張する生態系観測
Classifying vegetation using artificial intelligence: Augmentation of ecosystem observation using existing data

*伊勢武史, 高屋浩介(京都大学)
*Takeshi ISE, Kosuke TAKAYA(Kyoto Univ.)

植生の把握は、基礎研究から生物多様性の保全や炭素蓄積量の把握などの応用研究まで、生態学的研究の根幹をなす情報である。そのため日本では環境省の植生調査などの大規模データの整備が行われているが、それらは精度・コスト・更新頻度のいずれについても十分とはいいがたい。そこで本研究では、国土地理院がパブリックデータとして公開している空中写真に人工知能を適用することで、高い識別精度とコストパフォーマンスを両立することを目的とする。対象地とした島根県津和野町の空中写真を取得し、スギ人工林・ヒノキ人工林・その他の3タイプの植生識別を行うため教師画像を取得した。使用した人工知能技法「こま切れ画像法」は教師画像取得の効率が、segmentationなどの他技法と比較してきわめて高いことが特徴である。tensorflowおよびkerasライブラリにより人工知能を実装した。その結果をQGISで可視化した。環境省植生調査および国有林GISを比較対象としたところ、植生識別結果には多くのちがいが見られた。そこで対象地においてドローン観測を行ったところ、本研究の結果がもっとも現状に近いことが判明したため、対象地の植生を的確に識別することに成功したといえる。針葉樹の人工林にアカマツや広葉樹がノイズとして混じる植生でも適切に識別することができ、従来は人手に頼っていた作業の代替となる可能性を示した。現地調査が不要で、無償のパブリックデータを活用するため、従来よりはるかに低コストである。この技術を広域に応用すれば、植生データベース整備のコストは大幅に削減されるため、更新頻度の向上にも資する。また、人工知能はシステマチックな植生識別を行うため、従来のように作業者の個性・気分・疲労などの影響を受けないことも、データの解釈と活用のための好条件となる。


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