| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-161 (Poster presentation)
気候変動の進行に伴い、生物の分布はより低温の極方向や鉛直方向に移動する傾向があり、海洋では現在既に広範囲に影響が及んでいる。特にサンゴや海藻のような生態系の基盤を担う生物群の分布が移動する場合には、生態系全体や地域社会へも影響が波及しうるため、その進行プロセスの理解が急務である。演者らはこれまでに、サンゴと海藻の分布記録を収集整備・解析し、気候変動と海流輸送に伴う魚類の海藻食害の増大によって海藻からサンゴへの群集シフトが生じていることを統計学的に解明した。しかし、暖温帯では海藻とサンゴは生息空間を巡って競争するにも関わらず、国内外問わず別個の研究分野が担ってきたため同所的な調査データが乏しく、気候変動に伴う海藻・サンゴ群集シフトの生態学的プロセスは直接的に解明されていなかった。そこで本研究は、地域レベルの高解像度で海藻・サンゴ群集シフトのプロセスを直接解明することを目的とし、野外調査・実験、統計モデリングによる研究を行った。水温勾配に関連する地域環境変異と群集構造の対応関係を見出すため、四国南西部の約 100 km 範囲の 7 地域を選定し、各地域内に沖合・岸寄の調査地点を設定した。南北端地域の海表面水温の差は夏期で約 2℃、冬期で約 4℃ あり、世紀末に予想される昇温規模に匹敵する。サンゴ、海藻および植食者の野外調査は、2019〜2023 年の間の春と秋に、3次元位置情報を記録しつつ水深 10 m 以浅で行った。また各調査地点・水深帯における魚類植食圧を評価するため、温帯性の主要海藻への摂食頻度を調査と並行し実験的に調べた。生息調査の結果、南方・沖合ほど植食圧が高くサンゴや熱帯性海藻が主体の生物群集が発達し、北方・岸寄ほど植食圧が低く海藻が中心の群集が残存した。一方で深度分布は生物群により異なる傾向を示した。本講演ではこれらを統合し、水温勾配と生物間作用を組み込んだ生息環境のモデリング推定を報告予定である。