| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-163  (Poster presentation)

鉄道の生物多様性への貢献:都市近郊の線路に残存するススキクラス表徴種【O】

*Gamu KAWAMOTO(Yokohama Narional Univ.)

日本の原風景の一つである里地里山は、多くの動植物の生息地として、日本の生物多様性を支える重要な景観である。茅場、採草地、放牧地としての利用を背景に持つ里地里山の半自然草地には、人為的な攪乱に依存する草原性の植物が多く生育していた。しかし、1960年代~2000年代にかけて里地里山は大きく減少し、日本における生物多様性の危機として挙げられている。一方、都市の線路脇における緑地空間は、鉄道会社による定期的な管理によって半自然草地のような環境が成立しているため、日本の半自然草地に生息する、ススキクラス種の生育地となっている可能性がある。そこで本研究では、都市郊外部である首都圏の国道16号線(都心から約30km)とJR武蔵野線(都心から約20km)に囲まれた範囲を対象地域として、同地域の線路脇におけるススキクラスの表徴種の分布調査を行った。鉄道以外の通常の立地として道路脇と比較するとともに、管理する鉄道会社や、周辺環境、線路構造の影響を調べた。調査距離は鉄道213km、道路115kmで、鉄道における100m区間ではトダシバ51区間、アキカラマツ38区間、ワレモコウ32区間に出現した。鉄道以外の通常の立地としての道路脇と比較して線路脇はススキクラス表徴種の出現率が有意に高かった。鉄道会社はススキクラス表徴種の出現率が高いグループ(東急、西武、小田急)と、低いグループ(JR東日本、東武、京王、京成)に2分された。出現率が高いグループの解析では、法面があり、周辺の土地起伏が緩やかで、開業からの年数があまり経っていない線路脇において、ススキクラス表徴種の出現率が高かった。これらの結果から、都市郊外部における線路脇は、絶滅の負債の影響はあるが半自然草地に生育する種のハビタットとして、地域の生物多様性に貢献していると考えられる。鉄道会社が線路管理業務を行うことによって、生物多様性に貢献することができるため、線路脇はOECMとしての活用が期待される。


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