| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-165  (Poster presentation)

倒木更新木の土壌到達による樹木成長と菌根の酵素活性の変化
Effect of root grounding of conifer saplings regenerated on nurse log to their growth and enzyme activity of mycorrhiza

*岡田慶一(東京農業大学), 安西楓(東京農業大学), 高橋穂乃花(東京農業大学), 時田勝広(前田一歩園財団)
*Kei-ichi OKADA(Tokyo Univ. Agriculture), Kaede ANZAI(Tokyo Univ. Agriculture), Honoka TAKAHASHI(Tokyo Univ. Agriculture), Katsuhiro TOKITA(Maeda Ippoen Foundation)

倒木更新は針葉樹の個体群維持に重要なプロセスだが、倒木上に更新した実生が繁殖可能な成木に至るには、土壌への定着が不可欠である。根系の土壌到達により更新木の栄養制限が緩和され、更新木成長は飛躍的に加速すると推測される。本発表では土壌到達による倒木更新針葉樹の栄養環境、および菌根の栄養獲得能力の変化を明らかにするとともに、土壌到達による生長変化を年代学的に解析した。これら栄養獲得能力と成長量の変化から、土壌到達による倒木更新木の成長促進プロセスを明らかにすることを目的とした。北海道東部に位置する阿寒湖周辺の針広混交林において、根が土壌到達後数年経過したトドマツの倒木更新稚樹5本を対象に調査を行った。根が土壌到達した前後での成長変化を調査するために、主幹基部の年輪を採取し年輪幅を計測した。さらに、倒木上の基部から根をたどり、土壌に到達した部分の根年輪を採取し、その年輪幅も計測した。また、根をたどる際に、同一個体の細根クラスターと周辺基質を倒木上と土壌中からそれぞれ5つ採取し、根端部の外生菌根の有機物分解酵素活性と基質のCN比、pH、無機態窒素量を測定した。
測定した5個体の樹齢は15-31年で、土壌に根が到達してからの経過年数は2-8年であった。これらの個体について、ある年の前後5年間の年輪幅の差を検定したところ、根が土壌到達している年代になると、過去5年間よりもその後の5年間の方が有意に高い成長を示した。倒木上と土壌での栄養環境は、倒木上の方が土壌中よりも有意に酸性化し硝酸態窒素が低かった。また、セルロース分解酵素であるβグルコシダーゼ(BG)とロイシンアミドペプチダーゼ(LAP)が土壌中で高い傾向を示し、特に両者の酵素活性比は、窒素獲得に関わるLAPの方がBGよりも土壌中で活性が高まっていた。このことから、土壌到達による成長の加速は、土壌到達による栄養可用性の改善と、菌根菌による窒素獲得能力の強化によって引き起こされた可能性が示唆された。


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