| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-166 (Poster presentation)
コニシハイノキ,アオバノキ,カンザブロウノキの生育環境の違いと種分化に関する考察
*指村 奈穂子(日本自然環境専門学校), 内貴 章世(琉球大学), 澤田 佳宏(兵庫県立大学), 古本 良(林木育種センター), 横川 昌史(大阪自然史博物館)
3種はハイノキ属内で同節に含まれていて近縁である。コニハイは西表島と台湾島のみに分布し、西表島では個体数が少ない。カンザブは静岡から九州までの太平洋側と台湾島北部、中国南部に隔離分布する。アオバは屋久島を北限とし中国南部、ヒマラヤ地域や東南アジア~ニューギニアに広く分布する。3種が北限地付近でどのような環境に適応して現在の分布を形成しているかを推定するために、分布情報を収集し気候および地形について種間で比較した。また西表島223か所、鹿児島4か所、台湾北部4か所に調査区を設定して毎木調査を行い、林分構造等を比較した。
生育地の気温は、アオバは他2種より温暖地に偏っていた。またコニハイは上流域の、カンザブは中流域の川沿い斜面に生育が多かった。系統解析から、アオバとカンザブは近縁で、コニハイはその姉妹群の基部に来ている。これらから、コニハイは、第四紀の温暖期に台湾付近で高標高域に分布が移動し雲霧帯で祖先種から分化、その後南西諸島では西表島の渓流沿いにかろうじて残ったと推察される。
林分構造の解析から、カンザブはアオバより高い頻度で撹乱が起きる立地で更新していることが明らかになった。このことから、第四紀の温暖期に撹乱が卓越する日本を北上してカンザブが分化、比較的撹乱の少ない中国大陸で西へ標高を上がってアオバが分化したのではないか。その後アオバは寒冷期に大陸から南西諸島へ、カンザブは温暖期に南西諸島では高標高地に追い込まれて消滅したと考えると現在の分布が説明できる。植物の種分化や分布変遷について、温度だけでなく撹乱体制の影響が示唆された。