| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-174 (Poster presentation)
植物細根に共生する菌根菌の菌糸生産と呼吸は、森林炭素動態の主要経路の一つである。菌根菌糸の炭素利用効率(carbon-use efficiency:CUE)は、菌糸バイオマスとして固定された炭素と呼吸として放出された炭素の比率である。菌根菌糸CUEの温度応答を明らかにすることは、土壌炭素動態の長期予測の上で重要である。これまで様々な森林で菌根菌糸の生産や呼吸が調べられてきたが、生産と呼吸を同時測定しCUEを算出した研究はほとんどない。そこで本研究は、温帯山地の標高傾度に沿った菌根菌糸の生産、呼吸、CUEの変化を調べた。静岡県伊豆半島と山梨県北岳の標高約150-2,600 mの原生的森林において、外生菌根性の優占樹種の樹冠下に菌糸培養コアを設置した。コア周辺土壌を、有機物を含まない真砂土に置換し腐生菌糸のコンタミを抑えた。CUEは、菌根菌糸の生産/(生産+呼吸)から求めた。
菌根菌糸生産は、標高上昇に伴い低下した。菌根菌糸のCUEは、概ね標高上昇に伴って低下したが、150と1,150 mではやや高かった。この2標高は、土壌C/N比が低かった。そのため、CUEは土壌温度と正の、土壌C/N比と負の相関を示した。CUEが温度と正の相関を示したのは、低温環境になると菌糸生産が強く制限される一方、そのような環境下でも菌糸体を維持するために一定程度の代謝(呼吸)を行っているためだと考えられた。CUEが土壌C/N比と負の相関を示したのは、菌根菌は低N環境下においてN獲得を維持するため、菌糸自体の生産よりも酵素生産などの機能のための呼吸に炭素を配分したためだと考えられた。このように、菌根菌糸の炭素配分は、標高上昇に伴う温度変化のみならず、土壌化学特性の影響も受けることが分かった。