| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-183 (Poster presentation)
コナラ(Quercus serrata)は東アジアの温帯林に広域的に分布・優占する。日本国内の分布域には、土壌全リン濃度が8倍以上の大きな土壌リン傾度が存在する。土壌リン可給性に対する種内での局所的な適応が、広域分布のメカニズムとして重要である可能性がある。実際に、リン可給性が低い土壌で生育するコナラ集団では、リン獲得に関わる細根ホスファターゼ活性が高いことが明らかになっている(水上未発表)。一方で、こうした野外でのパターンが自然選択に基づく遺伝的な形質分化なのか可塑的な形質の変化なのかは明らかになっていない。本研究は共通圃場実験によって、細根ホスファターゼ活性などのリン獲得形質においてコナラ集団間に遺伝的差異が見られるかを調べた。
土壌リン条件が異なる産地(高リン3産地、低リン3産地)から種子を採取し、京都大学北白川試験地において、均質な条件で栽培した。2023年9月に各産地10個体について形質測定を行った。細根ホスファターゼ活性など、リン獲得に関わる根形質を測定した。葉・茎・根のリン濃度やバイオマス、さらに栄養塩利用に関わる葉形質であるLMA(単位面積当たりの葉重)を測定した。各形質について、産地の土壌リン条件によって集団間に差異が見られるかをネスト分散分析によって調べた。
LMAには産地の土壌リン条件によって集団間に差が見られた。これは、土壌リン傾度において葉形質に遺伝的差異が存在することを示唆している。一方で、細根ホスファターゼ活性には集団間で差が見られなかった。栽培個体の活性の平均値は、各産地の成木個体より低い(170 vs 400 µmol pNP g⁻¹hr⁻¹)。今回の測定では1年目の実生を用いたため、土壌からの栄養獲得に働く根形質が十分に成熟していなかった可能性がある。したがって、現段階でコナラの細根ホスファターゼ活性に遺伝的差異はないと結論づけることはできず、今後も圃場実験を継続していく予定である。