| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-186 (Poster presentation)
森林生態系において,植物の機能形質の一つである根からの有機酸放出速度が異なることにより母岩や土壌中を介した栄養塩動態が変化することが報告されている。特に母岩から供給されるカルシウムは様々な生物の栄養塩となるうえに,生態系における酸緩衝能の差をもたらす。このような植物の機能形質の違いは植物の進化の過程と深く関係していると考えられるが、どの様な環境要因がトリガーとなって機能形質の違いが生じるかはあまり分かっていない。日本列島に広く分布するスギ(Cryptomeria japonica)は,各生息地域の環境に適応することで遺伝的に分化した多くの地域集団を有している。本研究では全国7箇所のスギの集団(秋田県仁鮒,富山県美女平,静岡県伊豆,京都府芦生,島根県隠岐島, 島根県安蔵寺,高知県魚梁瀬)において調査を行なった。各調査地では,スギおよび周辺に生息する広葉樹の生葉,林床の土壌,母岩を採集し⁸⁷Sr/⁸⁶Srを測定した。また,これらの地域集団に生育するスギのクローン個体が植えられている東北大学の川渡フィールドセンター(FC)で根からの有機酸放出速度を測定した。その結果、仁鮒,伊豆,隠岐島ではスギの葉と土壌間で⁸⁷Sr/⁸⁶Srが有意に異なり,母岩に近い値を示した。これら調査地の母岩を分析したところ植物可溶性のCa濃度が高いことが分かり、植物がCaを直接吸収しやすい母岩組成であると考えられた。つまり,各スギ集団はそれぞれの地域の母岩組成に適応・進化してきた結果,母岩を介した栄養塩吸収形質を獲得した可能性が示唆された。さらに、川渡FCに生育しているスギの根有機酸放出速度は、仁別および隠岐島由来の個体において有意に高く、野外調査の結果と整合する結果となった。しかし、伊豆のスギは有機酸の放出速度が有意に低い傾向にあり、このスギ集団が母岩由来の成分を多く含むのは有機酸以外の要因が関係している可能性がある。