| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-187 (Poster presentation)
ミミズによる土壌構造の改変は、土壌表層に存在する放射性セシウム(RCs)の鉛直分布や存在形態に影響を与える可能性がある。福島第一原発事故後10年以上が経過しても、森林生態系に残存するRCsの大部分は、深さ5cm以内の土壌表層に集積した状況にある。これらのRCsが生物のかく乱によって、どのような影響を受けるのかを正確に評価することは、森林生態系におけるRCsの長期的な移行挙動を把握するうえで重要となる。筆者らは、これまでに2週間の飼育実験から、ミミズは短期的には土壌表層のRCsの鉛直分布に影響を及ぼさないことが明らかにした。しかし、ミミズの生育期間を想定するとより長期の評価が必要である。また、実環境では徐々にではあるがRCsが下方移動していることが報告されている。そこで、本研究では、福島県で採集したフトミミズ科のミミズを1か月以上飼育し、土壌表層のRCsの鉛直分布に与える影響を正確に可視化することで、より長期の影響を評価することを目的とした。原発から北西約40kmに位置する落葉広葉樹を主とする山林内で、フトミミズ科の表層種ミミズを見取り法で採集した。供試土壌には、ミミズ採集地点(RCs汚染土壌)および秋田市内(非汚染土壌)の落葉広葉樹林の表層土壌(0-5cm)を用いた。RCs汚染土壌(上部2cm)と非汚染土壌(下部8cm)を設置した実験系に採集したミミズを1匹入れ、0, 1, 3, 7, 14, 28, 35, 49日後に実験容器を凍結し、RCsの鉛直分布をオートラジオグラフィにより可視化した。その結果、飼育49日後にRCsの一部が表層から下層に約4cm鉛直移動することが確認された。この移動は不均一に生じており、ミミズの摂食排糞や坑道形成等によりRCsの移動が生じたことが示唆された。また、ミミズのフン団粒内にRCsが存在しており、ミミズの摂食排糞とともに、RCsが土壌中を移動することが明らかになった。これらの結果から、ミミズの活動は、表層に存在するRCsを下方移動させる要因の一つであることが示された。